ハガネとは?
主に和庖丁などに使用され、「炭素鋼」等と呼ばれることもあります。
JIS規格で規定された炭素含有量0.6%以上の鋼材で工具鋼や刃物鋼などが一般的です。炭素含有量などに応じて様々な用途に合わせた炭素鋼が細かく規定されています。
庖丁用としては、多々良(たたら)などで作られた「玉鋼(たまはがね)」の伝統製法を、日立金属株式会社が大量生産できるよう改良を重ねて製造した鋼材、安来鋼(ヤスキハガネ)が主流になっています。
非常に優れた材料で、不純物の量や、特殊金属の配合により様々なグレードがあり、下から順に黄紙、白紙、青紙となっています。価格においても、黄紙は低価格帯、白紙は中~高価格帯、青紙は高価格帯といったような振り分けになっている場合が多いです。
SK材
“Steel(ハガネ)”と”Kougu(工具)”の頭文字よりSK材ともいいます。
SK材はJISで規定されている一般的に焼き入れを行う工具などに使用される材料です。
炭素量0.6%以上を含有した鋼材で、JIS規格で11種類に細かく区分けされている中、特にSK-85材 (旧SK-5)などが家庭用包丁として使用されます。
このSK材をベースに、冷間金型などに使用するSKD材やドリルなどに使用する高速度鋼SKH材などが開発されており、このような特殊炭素鋼を用いた包丁などで用いられることもあります。
黄紙2号
炭素含有量:1.05-1.15%
HRC(ロックウェル高度):60以上
焼入れ温度帯:760-800℃
焼入れ方法:水
メーカー:日立金属株式会社
C(炭素) | Si(ケイ素) | Mn(マンガン) | P(リン) | S(硫黄) |
1.05-1.15% | 0.10-0.20% | 0.20-0.30% | 0.030%以下 | 0.006%以下 |
黄紙鋼は、SK材をベースに50%程度の純度の高い砂鉄を加えて作り上げた鋼材になります。
成分としては鉄(Fe)、炭素(C)に微量の不純物(リン・イオウなど)が混ざっています。不純物が含まれているため、一般的に家庭向けの包丁や鎌、鍬などの絶対的な耐久性が求められない刃物に使用されることが多い素材です。
現在は黄紙2号(1.05〜1.15%)のみが生産されています。
黄紙鋼で作った庖丁の特徴としては、SK材などに比べ切れ味に優れますが、耐久性や耐錆性などは大幅には変わりません。ただし、製造上「焼入れ」が安易に行えるので、比較的安価で刃物を作ることができ、家庭向けの和包丁や全鋼の洋包丁等で使用されることが多いです。
シャープネス (鋭さ) | 靭性 (欠けにくさ) | 耐摩耗性 (刃持ちの良さ) | 耐腐食性 (錆びにくさ) | 研削性 (研ぎ易さ) |
△+ | 〇 | △ | △ | ◎+ |
白紙シリーズ
白紙鋼は、黄紙鋼に比べ不純物を極限まで減少させた非常に重度の高い素材となります。
黄紙鋼に比べ不純物が大変少ない優れた材料ですが、硬度を出すために行う「焼入れ」という工程は炭素鋼の中でも群を抜いて難しく、職人の腕の差が最も出やすい材質だと言われております。
白紙鋼には炭素の含有量により白紙1号(1.25〜1.35%)、白紙2号(1.05〜1.15%)、白紙3号(0.80〜0.90%)、白紙鋸材があり(0.90〜1.00%)、一般的に硬度と切れ味、砥石との相性の良さから、業務用包丁としては白紙2号が一般的に多く用いられます。
白紙鋼で作った包丁の特徴としては、一般的には硬度が高く、非常にシャープな切れ味を持っている反面、靭性はやや劣るため、脆く欠けやすいという欠点があります。
しかし砥石で研ぎ直しがしやすく、切れ味と日々のメンテナンス(研ぎ直し)バランスが優れた鋼材と言えるでしょう。
白紙1号
炭素含有量:12.5-1.35%
HRC(ロックウェル高度):60以上
焼入れ温度帯:760-800℃
焼入れ方法:水
メーカー:日立金属株式会社
C(炭素) | Si(ケイ素) | Mn(マンガン) | P(リン) | S(硫黄) |
1.25-1.35% | 0.10-0.20% | 0.20-0.30% | 0.025%以下 | 0.004%以下 |
白紙の中でも、焼き入れによって出せる硬度が最も高く、非常にシャープな切れ味が特徴です。
炭素の含有量が多い分、焼き入れ性が非常に悪いため(難しい)、熟練の職人でも高度な技術を要する鋼材になります。鋭利な刃が付くというメリットがある反面、脆く欠けやすいといったデメリットも目立つので、用途やシーンを選ぶ必要のある素材と言えます。
柳刃庖丁(お刺身庖丁)など、大きな衝撃を加えず、繊細な作業に使用する庖丁が適しているでしょう。
シャープネス (鋭さ) | 靭性 (欠けにくさ) | 耐摩耗性 (刃持ちの良さ) | 耐腐食性 (錆びにくさ) | 研削性 (研ぎ易さ) |
◎ | △ | 〇 | △ | 〇+ |
白紙2号
炭素含有量:10.5-1.15%
HRC(ロックウェル高度):60以上
焼入れ温度帯:760-800℃
焼入れ方法:水
メーカー:日立金属株式会社
C(炭素) | Si(ケイ素) | Mn(マンガン) | P(リン) | S(硫黄) |
1.05-1.15% | 0.10-0.20% | 0.20-0.30% | 0.025%以下 | 0.004%以下 |
白紙の中でも、家庭向けから本職向けの庖丁まで最も広く使用されている鋼材になります。
鋭い切れ味と欠けにくさのバランスが非常に良く、研ぎ直しもしやすいので、非常に扱いやすい鋼材です。
出刃庖丁のように比較的荒い使い方をする庖丁から、繊細な作業に使用する薄刃や柳刃、万能使いの庖丁まで様々な用途に適した材質と言えるでしょう。
ハガネで何を購入するか迷ったら、こちらの白紙2号を選べばまず間違いないかと思います。
シャープネス (鋭さ) | 靭性 (欠けにくさ) | 耐摩耗性 (刃持ちの良さ) | 耐腐食性 (錆びにくさ) | 研削性 (研ぎ易さ) |
〇+ | 〇 | 〇 | △ | ◎ |
白紙3号
炭素含有量:0.80-0.90%
HRC(ロックウェル高度):60以上
焼入れ温度帯:760-800℃ / 780-820℃
焼入れ方法:水 / 油
メーカー:日立金属株式会社
C(炭素) | Si(ケイ素) | Mn(マンガン) | P(リン) | S(硫黄) |
0.80-0.90% | 0.10-0.20% | 0.20-0.30% | 0.025%以下 | 0.004%以下 |
白紙1号や2号よりも、切れ味の鋭さという面では劣りますが、靭性には優れており、初心者の方でもより扱いやすい素材でしょう。
主に家庭用から初心者向けの安価な庖丁に使用される場合が多いですが、出刃庖丁のように欠ける心配のある庖丁は本職の方でもあえて硬度の低いものを選ぶ人もいます。
切れ味と刃持ちの良さを求める方には不向きですが、欠けにくさや研ぎ直しのしやすさを求める方や練習用としてもおすすめです。
シャープネス (鋭さ) | 靭性 (欠けにくさ) | 耐摩耗性 (刃持ちの良さ) | 耐腐食性 (錆びにくさ) | 研削性 (研ぎ易さ) |
〇 | ◎ | △+ | △ | ◎+ |
青紙シリーズ
青紙鋼は、純度の高い白紙にクローム(Cr)、タングステン(W)を添加した合金鋼です。クロームは靭性(粘り強さ)と焼き入れ性(焼き入れのし易さ)をアップし、タングステンは耐摩耗性(刃持ちの良さ)のアップに重要な役割を果たします。
また硬度の高い金属炭化物が組織内に生成されるため、摩耗しにくく永切れする庖丁ができます。炭素量の違いで青紙1号(1.25〜1.35)、青紙2号(1.05〜1.15)、そして炭素量の他添加物を増やし特殊溶解させた青紙スーパー(1.40〜1.50)などがあります。
またクロムの添加によって、焼き入れ性が向上し、焼き入れの工程においては白紙鋼ほどシビアではなく、均一な硬度を保ちやすいのが特徴です。白紙鋼に比べ靭性に優れているので、若干欠けにくくなりますが、その反面研ぎ直ししにくい面も見られます。
青紙1号
炭素含有量:1.25-1.35%
HRC(ロックウェル高度):60以上
焼入れ温度帯:780-830℃
焼入れ方法:水 / 油
メーカー:日立金属株式会社
C (炭素) | Si (ケイ素) | Mn (マンガン) | P (リン) | S (硫黄) | Cr (クロム) | W (タングステン) |
1.25-1.35% | 0.10-0.20% | 0.20-0.30% | 0.025%以下 | 0.004%以下 | 0.30-0.50% | 1.50-2.00% |
青紙の中では上級モデルの商品に使用されることが多く、優れた切れ味と耐摩耗性を兼ね備えた鋼材です。
よく白紙1号と比較されることがありますが、切れ味においては白紙は「スパっと」、青紙は「ヌルっと」切れるという表現をすることがあります。耐摩耗性においては青紙の方が優れておりますが、研ぎ難さとトレードになるので、最高級の切れ味と刃持ちの良さを求める方におすすめです。
商品価格帯としては白紙よりも高い傾向にあり、主に本職の方が買われる場合が多いです。
シャープネス (鋭さ) | 靭性 (欠けにくさ) | 耐摩耗性 (刃持ちの良さ) | 耐腐食性 (錆びにくさ) | 研削性 (研ぎ易さ) |
◎ | △+ | 〇+ | △ | 〇 |
青紙2号
炭素含有量:1.05-1.15%
HRC(ロックウェル高度):60以上
焼入れ温度帯:780-830℃
焼入れ方法:水 / 油
メーカー:日立金属株式会社
C (炭素) | Si (ケイ素) | Mn (マンガン) | P (リン) | S (硫黄) | Cr (クロム) | W (タングステン) |
1.05-1.15% | 0.10-0.20% | 0.20-0.30% | 0.025%以下 | 0.004%以下 | 0.20-0.50% | 1.50-2.00% |
青紙の中でも、白紙2号と同様に最も幅広く使用されている鋼材になります。
滑らかな切れ味と欠けにくさのバランスが非常に良く、さらに加えて刃持ちが良いのが特徴です。
白紙2号の上位モデルとして販売されていることが多く、家庭用でも本職用でもワンランク上の庖丁が欲しいという方におすすめです。
シャープネス (鋭さ) | 靭性 (欠けにくさ) | 耐摩耗性 (刃持ちの良さ) | 耐腐食性 (錆び易さ) | 研削性 (研ぎ易さ) |
〇+ | 〇 | 〇+ | △ | 〇+ |
青紙スーパー
炭素含有量:1.40-1.50%
HRC(ロックウェル高度):60以上
焼入れ温度帯:780-830℃
焼入れ方法:水 / 油
メーカー:日立金属株式会社
C (炭素) | Si (ケイ素) | Mn (マンガン) | P (リン) | S (硫黄) | Cr (クロム) |
1.40-1.50% | 0.10-0.20% | 0.20-0.30% | 0.025%以下 | 0.004%以下 | 0.30-0.50% |
W(タングステン) | V(バナジウム) |
2.00-2.50% | 0.30-0.50% |
青紙の中でも、焼き入れによって出せる硬度が最も高く、非常にシャープな切れ味と刃持ちの良さが特徴です。
青紙スーパーは特に加工がしづらく、鍛造や研磨の工程で非常に手間がかかる鋼材です。また、鍛接にも非常に高い技術を要するため、堺でも使用している鍛冶屋はごく僅かです。
よって、主に三枚合わせの三徳・菜切・牛刀等に使用されることの多い鋼材と言えるでしょう。
シャープネス (鋭さ) | 靭性 (欠けにくさ) | 耐摩耗性 (刃持ちの良さ) | 耐腐食性 (錆び易さ) | 研削性 (研ぎ易さ) |
◎+ | △+ | ◎ | △ | △+ |
元素の作用と効果
五元素の作用
炭素【C】 | 鋼にとってなくてはならない大切な元素で、硬さや強さを増す最大要因の元素。 |
ケイ素【Si】 | 溶鋼中の酸素を除く為の元素。また、強さや硬さを増す作用がある。 (引張り強さでは、炭素の効能の約1/10程度です。) |
マンガン 【Mn】 | 溶鋼中の硫黄を除く為の元素。 また、焼きがよく入るようになる元素で、鋼に粘り強さ、いわゆる靱性(じんせい)を与える。 |
燐(リン)【P】 | 鋼にとって有害な元素で、冷間脆性(れいかんぜいせい)、つまり寒い時に鋼をもろくさせる性質がある。含有量が少ない事が望ましい元素。 |
硫黄(イオウ)【S】 | これも燐と同じく好ましくない有害元素。熱間脆性、つまり、赤熱状態の時に鋼をもろくさせる性質がある。含有量が少ない事が望ましい元素。 |
添加元素の効果
クロム【Cr】 | 焼入性が良くなり、耐食性を増す。13%以上添加されると、ステンレス鋼と呼ばれる。 |
モリブデン【Mo】 | 炭化物を作り耐摩耗性が良くなる。ステンレス鋼では、耐食性も良くなる。焼戻し後のねばさも強力になる。高温状態でも硬く、耐摩耗性が良い。 |
バナジウム【V】 | 非常に硬い炭化物を作り、耐摩耗性が良くなる。結晶粒を微細にする働きがある。脱炭防止効果がある。 |
タングステン【W】 | 炭化物を作り易く、耐摩耗性が良くなる。高温度に耐える性質がある。焼入れ性が良くなる。 |
コバルト【Co】 | 焼入れ組織(マルテンサイト)を強くし、炭化物の脱落を防ぐ。高温状態でも硬く、耐摩耗性が良い。 |
銅【Cu】 | 元々は不純物であるが、抗菌性を示す為、少量添加される事がある。 |
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