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【冶金学から紐解く】焼入れの原理と庖丁が歪む原因

焼入れとは?

基礎解説

焼入れとは金属をある一定の温度帯に加熱した後、急冷することで刃物としての硬さを得るという工程です。

刃物としての性能を決める非常に重要な工程の一つです。

この際に金属が、A組織(常温)→B組織(高温帯)→C組織(急冷後)という順で異なる組織構造へ変化が起こります。

専門解説

オーステナイト状態から水、または油で急冷して組織をマルテンサイト化させることで、刃物としての硬さを得る工程を焼き入れと呼びます。

本来加熱する前の鋼材はパーライト(α鉄+Fe3C)という安定した組織になっており、そこからある一定の温度まで加熱するとα鉄が異なる組織構造に変態し、原子配列が変わります。

この状態をオーステナイト(またはγ鉄)と呼び、配列が変わることで炭素をより多く取り込むことができるようになります。

そのまま徐冷すればもとのパーライト(炭素を放出して、α鉄+Fe3Cの状態)に戻るのですが、高温帯で一定時間保持し均一にオーステナイト化させた後急冷すると、炭素が排出され元の状態に戻る暇がなく無理やり閉じ込められる形で固定されます。

この状態をマルテンサイト呼び、多くの炭素を固溶したまま急冷されることにより原子配列のみが元に戻り、過剰に炭素を固溶した不安定な組織に変態します。

庖丁が歪む原因

基礎解説

焼入れをする際に殆どのB組織はC組織へと変化しますが、変化しきれず僅かに残ったB組織が製品として出来上がった後、時間の経過とともに徐々にC組織に変化していきます。

B組織とC組織では体積が異なるため、元の寸法からズレが生じ、歪みの原因となります。

専門解説

オーステナイトから急冷しマルテンサイトに変態し始める温度までの間は金属の体積は縮小しますが、変態点を通り越した時点で今度は膨張を始めます。

変態点を通り越したあとは冷却スピードによる影響は殆ど受けず、温度の変化によって変態が進んでいきます。

この際にある温度まで冷却されなかった場合に一部のオーステナイトがマルテンサイトに変態しきれず残留オーステナイトとして組織の中に残ってしまいます。

この残留オーステナイトが時間の経過とともにマルテンサイトに変化することで徐々に膨張し寸法に狂いが出て、歪むという原理になります。

今日の専門用語

フェライト(α鉄)

順鉄に近い極低炭素鋼の常温組織。

通常*0.02%(資料によって異なる)の炭素しか固溶することができない。体心立方格子。

セメンタイト(Fe3C)

炭素と鉄の化合物で脆くて硬い性質を持つ。

パーライト 

フェライトとセメンタイトが層になった組織。

オーステナイト(γ鉄)

α鉄をある温度まで加熱すると、*組織構造が変化して2.14%もの炭素を固溶できるようになる。

面心立方格子。

*体心立方格子(α鉄)→面心立方格子(γ鉄)への変態

マルテンサイト

オーステナイトを急冷することで得られる不安定な組織。

焼入れ後の組織。

残留オーステナイト

焼入れ時に変態しきれずに、マルテンサイトの中に残留したオーステナイト。

利点
靱性が良くなり、焼き割れや使用中に割れるリスクを低下させる。

欠点
硬度が低下する
経年劣化しやすい。(歪みがでる等)

専門的解説の方は専門書の内容を参考に紹介させていただきましたが、初心者の方には少し難しい内容だったかもしれません。

僕自身も数回読み直してやっと、専門用語を理解できるようになりました。

冶金学や熱処理に関する本を読んでいると、庖丁に関して今まで分からなかったことが解決することもあるので、非常に興味深いです。

僕が今まで読んできた書籍を数冊紹介した記事もありますので、興味のある方は是非参考にしてください。

【Instagram】 tomo_knife_life