水焼入れ(水冷)
『水』を冷媒として行う焼入れを指します。
主に白紙系の焼き入れに適しており、特徴としては油よりも冷却速度が速く、より高い硬度を得ることが可能になります。
反面、均一に冷却することが難しく、歪みや焼き割れが生じやすいため、失敗するリスクが高い点がデメリットです。
また今回紹介する3種類の焼入れの中で最も温度管理が難しく、焼入れの温度、水温、撹拌のスピード、冷却時間など全てが完璧に揃って初めて品質の高い庖丁ができあがります。
品質を安定させるには一流の職人でも至難の業と言われています。
特に白紙系の場合は焼き入れ性が悪いため冷却速度が遅いと効果が得られず、刃物として十分な硬さを得ることができません。炭素の含有量が多いほど焼き入れ性は悪くなる傾向にあるため、白紙1号は基本的には水での焼き入れでのみ刃物としての硬度を得ることができます。
焼き入れ性は熱処理によって焼き入れ硬化のしやすさを表す合金の性質で、焼き入れをした際に表面からどれだけ深く硬い組織が得られるかを示す性質である。一般に硬化という現象は脆化を伴い起こる。
Wikipediaより引用
また、水焼き入れの場合は泥塗という工程を行う必要があります。
泥塗とは特殊配合した泥水の膜で刃物の表面を均一に薄くコーティングする工程で、熱の入り方を均一にし焼きムラを軽減する効果が得られます。また、水で冷却する際に発生する蒸気膜を抑制することで、より効率よく素早い冷却が可能になります。
高温に熱された庖丁を水中に入れた際に、庖丁の表面に触れている水分が瞬間的に蒸発して気化することでできる薄い空気膜のこと。
この空気膜は断熱の働きをするため、冷却スピードが遅くなり上手く焼きが入らない原因になります。
泥を塗ることで、泥がスポンジのような役目を担い、水分の吸収と蒸発を効率よく繰り返すことで焼き入れに必要な冷却速度を保つことができると言われています。
Wikipediaより引用
油焼入れ(油冷)
『油』を冷媒として行う焼入れを指します。
主に青紙系の焼き入れに適しており、特徴としては水焼き入れよりも均一な冷却が可能で、焼き割れや変形のリスクが少ないというメリットがあります。
しかし、冷却スピードは水よりも遅いため基本的には焼入れ性の良い鋼材にのみ使用される手法になります。
特に青紙系は微量のクロムやタングステンが添加されていることで、焼き入れ性が白紙系よりも良いという特徴があります。焼き入れ性の良い鋼材では水焼き入れをした場合に焼き割れを引き起こしやすくなったり、残留オーステナイトの割合が多くなることで逆に硬度の低下を引き起こす確率が高くなると言われています。
日立金属のカタログには青紙系は水・油どちらを使用しても焼き入れが可能との記載がありますが、仕上がりの性能が異なることからも評価は作り手によって意見が分かれます。
理論上は焼き入れ性の良い低炭素の白紙3号や青紙系の方が失敗する確率は低いので、比較的安定した生産が可能です。
油焼き入れの場合は蒸気膜ができないため、基本的には泥塗をする必要はありません。
空気焼入れ(空冷)
『空気』を冷媒として行う焼入れを指します。
主にステンレス合金鋼の焼入れに使用されます。
ステンレス合金鋼は白紙系の炭素鋼や青紙系の合金鋼と異なり、クロムが13%程含まれているため焼入れ性が非常に良いという特徴があります。したがって、ある一定の温度に加熱した後、室温にて徐冷するだけで焼きが入り刃物として十分な硬度を得ることが可能です。
水焼入れや油焼入れのように刃物の焼入れ硬度が冷媒の温度に大きく影響を受けることはないので、空冷によって焼きが入る鋼材は総じて品質が安定しやいと言えます。
一般的にステンレス合金鋼の庖丁は組織を安定させて経年変化をできる限り少なくさせるために、サブゼロ処理をセットで行う場合が多いです。
熱処理の一種で、主に焼き入れ後の鋼材を0℃以下の環境で急速に冷却することです。
-100℃までをサブゼロ処理、-130℃以下を超サブゼロ処理と言い、主に炭酸ガスや液体窒素などを使用して処理を施します。
温度が低いほどマルテンサイト変態を促す効果が期待でき、硬さの均一性や耐摩耗性の向上・経年劣化を防止するなど多くのメリットがあります。
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