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砥石のプロフェッショナル・天然砥石 尚さんを迎えて語る、天然砥石の深淵と人造砥石『研承』開発秘話

https://www.youtube.com/watch?v=T6l1r7yyGR8&t=2s

 

刃物を極める者にとって、避けては通れない「砥石」の世界。今回は、YouTube動画『【新メンバー?!】砥石のプロフェッショナル ‐ 天然砥石尚 naoさん』の内容をベースに、自ら山に入り天然砥石を採掘・販売するプロフェッショナル「なお(nao)さん」、刃物のプロ「藤原さん」、そして進行役の「柿沼さん」の3人による、熱くディープな砥石談義を限界のボリュームでお届けします。

世間一般の研ぎの教科書には載っていない、ミクロの世界の真実と、彼らが共同開発した人造砥石ブランド『研承(けんしょう)』に込められた狂気的なこだわりを解説します。

1. 異色の経歴を持つ天然砥石のプロ「なおさん」とは?

散歩中に砥石を見つけたことが全ての始まり

動画のゲストであるなおさんは、キャリア32〜33年を誇る天然砥石のプロフェッショナルです。10代の頃から研ぎに親しんでいましたが、元々は建築関係の仕事をしていました。本格的に砥石屋の道を志したのは20代後半、30歳頃のことです。

そのキッカケは、当時住んでいた家の裏山(麓)にありました。そこはかつて砥石屋(砥石の採掘組織)があった山だったのです。ある日、なおさんがたまたまそこを散歩していたところ、「あれ?石(砥石)が落ちてんじゃね?」と気づいたことがすべてのスタートでした。

その山は幸運にも村が所有する山で、地域の高齢者たちに話を訊くと「昔はそこから砥石を取っていたよ」という証言が得られました。こうして、なおさんの砥石採掘人生が幕を開けます。

師匠なしの独学で挑んだ採掘と「面(とめん)」の探求

なおさんには、砥石の掘り方や見分け方を教えてくれる師匠はいませんでした。完全に独学で、自分でひたすら山を叩き、割れ目を入れて「あ、多分これだろうな」と手探りで石を掘り起こしていきました。

掘り出した石を砥石として使うには、刃物をあてる平らな面である「砥面(とめん)」を作らなければなりません。しかし、天然砥石は薄っぺらい塊であり、繊維の方向(層)が存在します。表面、上、下、あるいは横、どこの面を砥面にするべきか、最初の頃は全く分からず、その「正しい方向探し」に奔走しました。 なおさんは自分で面をつけた試作品を、大工さんや楽器製作者といった専門家のもとへ持ち込み、「これって使えるの?」と意見を聞いたり、先輩の砥石屋さんに尋ねたりして、周囲の職人の目で盗みながら技術を確立していきました。

現在でも山に入って採掘を続けているなおさんですが、「未だに(洞窟に入るのは)怖い」と本音を漏らします。コウモリがピピピと飛んでくる暗闇での作業であり、過去には大きな怪我も経験しています。「体(骨格)はボロボロ」になりながら、危険と隣り合わせの重労働をこなしています。ちなみに、なおさんが手掛ける有名な「田村山(たむらやま)」は洞窟(坑道)ではなく、元々斜面だった壁面を掘り進めて地面にしていくスタイルの採掘場です。

2. 包丁のプロ「藤原さん」との出会い

楽器職人を介して届いた「田村山」の衝撃

包丁のプロである藤原さんと、なおさんが出会ったのは今から14〜15年ほど前(少なくとも10年以上前)のことです。藤原さんが修行を終えてすぐ、27〜28歳の頃でした。

始まりは、藤原さんがある楽器職人(楽器を作っていらっしゃる方)と知り合ったことでした。その職人から「今、こういう砥石を自分で取っている子がいる。これをもらったから、良かったら使ってみて」と渡されたのが、なおさんの掘った「田村山」の天然砥石だったのです。

藤原さんがそれを実際に使ってみたところ、「あ、めちゃくちゃいいな!」と衝撃を受けました。どうにかしてこの砥石を手に入れたいと考えた藤原さんは、なおさんへ直接電話をかけます。

最初の1本、そして共同ビジネスへ

藤原さんから電話を受けたなおさんは、1丁のでかい砥石を発送しました。それがたまたま、包丁を研ぐにはものすごく相性が良い、絶妙な柔らかさを持った砥石だったのです。藤原さんは「これめちゃくちゃいい!買うから!」と大喜びで購入しました。これが二人の最初の接点です。しかし、そこからどのように意気投合し、一緒に砥石の商売(研承の開発など)をするに至ったのか、その詳細な過程はお互いに長すぎて「あんまり覚えていない」と笑い合います。

3. 天然砥石のブームに対するプロの視点と販売哲学

天然砥石は「一期一会」であり、本当の意味では分からない

昨今の天然砥石の流行や、1丁数10万円という高価格化について、進行役の柿沼さんは売り手としての不安を口にします。「自分は目利きに100%の自信が持てないから、天然砥石は扱わない。10万円も出して外れだったら買い手が可哀想だし、数年前にネットオークションで『普通のレンガに偽物の印鑑を押しただけの偽物』が出回っているのを見た。そこまで露骨でなくても、売り手が商品の性質をどこまで理解して売れているのかは非常に難しい問題ではないか」という疑問です。

これに対して、天然砥石を供給する側のなおさんは、自身の深い販売哲学を語ります。

なおさん: 「僕個人的な考え方では、天然の石は一つひとつが全部違う。同じ一つのゴロっと出てきた塊から取るにしても、切り方によって『この子とこの子は全然別の子』になる。見た目はよく似ていても中身は違う。だから、本当の意味では(使うまで性質が)分からない、というのが多分正解なんだと思います。だって、掘っている僕自身でさえ100%は分からないですから」

プロでも売るのが難しいからこそ「人造砥石」が生まれた

藤原さんもこの意見に強く同意します。この「個体差が激しく性質が均一ではない」という天然砥石の性質は、魅力であると同時に、歴史的には計算が立たない「不都合な点」でもありました。藤原さんの父親(先代の売り手)も、昔天然砥石を売りながら「売ったけれど、本当に良かったかどうかが自分でも分からない。売るのがものすごく難しかった」と漏らしていたそうです。

この「分からないリスク」を解消するために、数字(粒度)によるスペック管理ができる「人造砥石」が生まれ、世の中の主流が天然から人造へと切り替わる決定的なキー(転換点)になった、と藤原さんは分析します。

なおさんの絶対的な自信と「対人販売」の面白さ

では、なおさんはなぜ高価な天然砥石を不安なく販売できるのでしょうか。それは、「悪いものは売らない、いいものしか売らない」という絶対的なポリシーがあるからです。

そして、なおさんの最大の特徴は「自分自身がもの凄く研ぎができる(大会でも結果を残している)」という点にあります。ただ山から取ってきて横流ししているのではなく、販売する前に、自分で何十本もの砥石で実際に刃物を研いで検査をしています。

その検査の中で、なおさんは「これは俺、大好き」「こいつは嫌い」という風に、石の『質』ではなく自分自身の『好み』で砥石を分別しています。質が良くても、好みに合わない石は当然出てきます。 それらを分けて並べ、店頭での「対人販売(試し研ぎ)」でお客さんに触ってもらうと、なおさんが「嫌い」に分類したグループの石を、お客さんが「これめちゃくちゃ好き!」と言って喜んで買っていく現象が起きます。ここに天然砥石の販売の面白さがあると、なおさんは語ります。

4. 研ぎ手のスタイルで変わる「砥石のゴール」

体重をかける人、サラサラ研ぐ人

藤原さんは、研ぎ手の好みによって砥石のパフォーマンスや結果が全く変わるメカニズムを解説します。 研ぎ手は大きく分けると、「全体重を乗せるように力を入れて研ぐ人」と、「力を抜いて優しくサラサラと研ぐ人」の2タイプに分かれます。

体重をかけて研ぐ人は、その強い圧力に耐える硬い砥石を好みます。もし、その人に「僕は体重をかけないから、このサラサラ研げる砥石が好きなんだよね」という毛色の違う砥石を渡してしまうと、どれだけそれが「いい砥石」であっても、上手く刃がつかず、結果が交わりません。「いい砥石だからといって、誰もが同じゴールにたどり着けるわけではない」のです。これは天然砥石に限らず、人造砥石でも100%同じことが言えます。

「寄せちゃう人」と「寄せられない人」

さらに藤原さんは、研ぎ手の熟練度を「砥石に自分を合わせられる人(寄せちゃう人)」と「合わせられない人(寄せられない人)」という表現で分類します。

  • 寄せちゃう人: 自分の研ぎの引き出し(幅)を多く持っており、「この砥石はこういうタイプね」と自分の側が合わせていける。結果として、どんな石からでも良い部分を選び取れる。
  • 寄せられない人: 自分の研ぎのスタイルが完全に決まっており、「俺の研ぎに合わない石はダメだ」と弾いてしまう。結果として、「このメーカーのこのシリーズじゃないとダメ」となりやすい。

これらはスタイルの話であり、どちらが良い悪いという問題ではありません。「寄せられない(ぶれない)人」の中には、一般的に習う研ぎ方からかなり逸脱した特殊な研ぎ方(刃物を回しながら研ぐなど)をしていても、競技会(削ろう会など)の手前まで出てこられるほどの驚異的な技術・義量を持った人がたくさんいます。

「守破離」と教えやすさの提案

藤原さん曰く、本に書いてあるような「基本の研ぎ方」が必要なのは、一番最初のお手本を学ぶ時(守破離の『守』)だけです。最終的にはみんな独自のやり方に移行していきます。教えている人数が圧倒的に多い藤原さんは、膨大なデータから「みんながゴールにたどり着きやすく、失敗しにくい共通の土台」として基本を提案していますが、それが究極的に作業効率が良いかと言われれば、決して絶対的なものではありません。

藤原さんはお弟子さんにいつもこう言っているそうです。 「登る山の高さ(8号目)までは全員登ってください。ただ、そこへ行くのに直線最短ルートで行くのか、ジグザグに行くのか、ルートは自由です。だって一人ひとり、体格も骨格も指の形も筋肉も全部違うのだから、全く同じやり方を強いるのは最終的に無理。必要なところだけ盗んで、最終的には取捨選択して自分に合うものを見つけるのが技術の習得である」

5. 木を削る大工道具(鉋)に求められるミクロの精度

包丁よりも圧倒的に高い「鉋(かんな)」の難易度

Aさんは「包丁の場合、相手(食材)が柔らかいので、刃先が多少研げていなくても金属の角度の鋭利さだけで切断できてしまう面がある。しかし、大工さんが相手にする『木』は硬い。やはり鉋の方が求められる精度は高いのか」と質問します。

これに対してなおさんは「鉋の方が圧倒的に難しい」と答え、藤原さんも「相手(対象物)が硬くなればなるほど、こちらが合わせなきゃいけない要素が多くなるため、難易度はすごく上がる」と同意します。形が似ている「鰻サキ包丁」と「切り出しナイフ」を比べても、木を削る切り出しナイフの方が圧倒的に研ぐのが難しいのです。

「削りやすさ」と「仕上がりの艶」は一致しない

木を削る世界(削ろう会など)では、サーッと軽く「削りやすい」ことと、削られた後の木の表面が「美しく仕上がる(艶が出る)」ことは、必ずしも一致しません。

刃先をあえて少し粗い状態にして摩擦を減らし、引きを軽くして「薄さ」だけを出す技術もあります。しかし、それだと削ったあとの木に「艶」が出ません。 刃先が粗い(傷が鋭利な)状態で木を削ると、その断面から木が水分を吸いやすくなり、将来的に腐りやすくなるなど、木の耐久性(持ち)が劇的に変わってしまいます。

過去の実験では、人造砥石で綺麗に削った木と、天然砥石で綺麗に削った木を1年間放置したところ、見た目は同じに見えても、人造砥石で削った木の方が後から表面が毛羽立ってきた(立ってきた)という結果が出たそうです。天然砥石が作る「丸みのあるぼやっとした微細な傷(刃先)」と、人造砥石が作る「鋭利な線状の傷」という、ミクロの世界の刃先構造の違いが、1年後の木の状態に鏡のようにそのまま映し出されるのです。そのため、大工工具を極める人たちは、常に顕微鏡で刃先を覗き込んで現状をチェックしています。

6. 人造砥石ブランド『研承』の開発秘話:中核を担う「3000番」

包丁職人と大工道具職人の「使っている石が同じ」だった

なおさんと藤原さんが共同開発した人造砥石ブランドが『研承(けんしょう)』シリーズです。このブランドが生まれたキッカケは、二人が毎週のように1回1〜2時間、電話で長年ディープな砥石談義をしていたことにあります。

ある日、ふと気づくと、包丁を研ぐ藤原さんと、鉋を研ぐなおさんで、現場で最終的に行き着いて使っていた市販の人造砥石のラインナップ(メーカーや番手の組み合わせ)が、驚くほど「そっくりそのまま一致」していたのです。

当時の市販品には、一括ですべての番手が満足に揃うメーカーがありませんでした。「1000番はこのメーカー、2000番はあっち、仕上げ手前はこっち」という風に、自分たちの膨大な知識と経験、そして無駄なお金を使って遠回りした結果の寄せ集めでした。極めた二人が同じ答えに行き着いたということは、そこに「研ぎの真理」があるハズだと確信したのです。ならば、消費者が遠回りしなくて済むように、「最初からこのシリーズ1本で中研ぎから仕上げ手前までが完全に完結する、理想のワンラインナップを作ろう」と考えたのが『研承』の始まりです。

理想の3000番『頂』が世界を変えた

開発において、二人が「一番大事な中核(土台)はどこか」を話し合った時、意見は完全に一致しました。それが、のちに大ヒットとなる『頂』の3000番です。

3000番という番手は、研ぎにおいて「形作り(中研ぎ)の終わり」であり、「仕上げ(天然砥石)の始まり」でもある、もっとも重要な「境い目(バトンパスの場所)」です。 当時、市販されていた3000番の多くは質が柔らかく、研いでいるうちに刃先が丸くダレて(慣れて)しまう欠点がありました。手前の中研ぎで刃先が丸くダレてしまうと、その後にどれほど極上の天然砥石(仕上げ)にのせても、刃先が砥面に浮かんで当たらなくなってしまいます。大半の研ぎ手が、目に見えないこの罠に気づかず失敗していました。

仕上げに入るギリギリ直前まで、刃先をビシッと尖らせた硬い状態を維持できる3000番がどうしても欲しい。二人は当時の砥石メーカーに直談判し、「そんなの作れない」と断られながらも、無理を言って理想の硬さを持つ『頂 3000番』を作ってもらいました。 これが完成したことで、仕上げの手前で理想の形状を作り込み、手前の粗い傷を完全に抜くことができるようになり、大工道具の世界では「革新的な砥石」として多くの人に評価され、「劇的に切れるようになった」という確信の声を勝ち取ることになります。

7. 新シリーズ『礎』と、未来の究極のローテーション

『頂』と『礎』は全くの別物

新しくラインナップに加わった『礎』シリーズについて、なおさんは「頂とは全くの別物。能力が全然違うので、頂と同じ感覚で使うと良い結果は出ない」と断言します。

違いを一言で言えば、『礎』の方が圧倒的に「研磨力(削るスピード)」が高いという点です。 砥石の番手(3000番など)というのは、単にその数字の大きさの研磨剤が入っているというだけの話ではなく、石を固める結合剤や、内部の空気の隙間(気孔)のバランスで性質が決まります。『礎』は内部の空気の隙間(気孔)が大きいため、驚異的な泥下りとスピードを誇る反面、ミクロレベルでの刃先へのダメージ(ザラつき)が少し大きくなる性質があります。研ぎ上がりの刃先も、『頂』がまっすぐ平らになるのに対し、『礎』はわずかにノコギリ状になります。

なおさんと藤原さんが行き着いた「5000番スタート」

なおさんは、これまでの『頂 3000番』が担っていた「仕上げ直前のビシッとした平らな土台作り」という役割を、『礎』シリーズで再現するなら「礎の5000番」を使ってほしい、と提案します。

なおさん自身、現在の研ぎ直し作業はほぼ「礎 5000番スタート」になっており、藤原さんも「今、仕事場で一番使うのは圧倒的に5000番。これを取り上げられたら涙目になる」と言うほど、この5000番の完成度に依存しています。

究極の理想:超高密度プレスによる「3000番・8000番」への挑戦

二人が現在、次なる野望として見据えているのが、「内部の空気の隙間を極限まで狭くするために、もの凄いプレス(圧)をかけて固めた、超高密度の人造砥石」の開発です。

プレスを強くして密度を極限まで高めると、削るスピード(研磨力)は一時的に落ちます。しかし、その代わりに、刃先が驚異的にビシッと揃うようになります。 もし、この高密度プレス技術を使って、中核である3000番や、さらにその上の「8000番」が完成すれば、研ぎの世界はさらに進化します。

今までは、大工さんが現場で「あ、ちょっと切れ味が落ちてきたな」となった時、高番手で硬く優れた人造砥石がなかったため、わざわざ荒い3000番の段階まで大きく戻って研ぎ直さざるを得ませんでした。 しかし、究極の硬さと緻密さを持った高密度の8000番があれば、少し切れやんだ刃物を、手前に戻すことなくその1丁だけで一瞬で超極上の状態に微調整(擦れ)できるようになります。「仕上げに入る手前の段階で、人造砥石の力だけでどこまで刃先を完璧に作り込めるか。それが上がっていけばいくほど、その後の天然砥石の作業が圧倒的に楽になる」のです。

扱う刃物(包丁と鉋)は違えど、ミクロの世界で刃先をどうコントロールしたいかという究極のゴールは、二人の間で完全に一致しています。

8. まとめ

柿沼さん: 本日は新メンバー(?)と言っていいでしょうか、いつでも来てくれるという頼もしい天然砥石のプロ・なおさんをお迎えして、自己紹介から、砥石のミクロな構造、そして『研承』に込められたディープな開発秘話まで、たくさんのお話を伺いました。なおさん、藤原さん、本当にありがとうございました!

なおさん・藤原さん: ありがとうございました!

https://www.youtube.com/watch?v=T6l1r7yyGR8&t=2s

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