庖丁を知る

庖丁に関する素朴な疑問10選

こんにちは。

庖丁専門店スタッフのTomoです。

普段は店頭に立ってお客様のお困りごとや疑問を解決したり、ご要望に合わせて最適な庖丁をご購入いただけるよう、全力でお手伝いをさせていただいております。

今回は日々の接客の中でお客様からいただく事の多い質問をまとめて紹介していこうと思います。

Q.1~5

Q.1 庖丁の正しいお手入れ方法は?

A.
ハガネやステンレスに関係なく、基本は使ったらなるべく早く洗い、しっかりと水分をふき取ってから保管していただくのが良いでしょう。

その際に汚れが庖丁に残っていると錆びてしまったり、場合によっては切れ味が落ちる原因になりますので、念入りに洗ってあげることが大切です。また、持ち手部分も汚れや臭いが付きやすいので、一緒に洗っていただくことをおすすめします。

ハガネに関しては非常に錆び易いので、使用方法や切る食材によっては短時間で表面に細かい鏽がでることがあります。手間はかかりますが、使い終わったら良く洗い、錆び取り用の消しゴムなどで磨いてあげると尚よいでしょう。

また、出刃や柳刃のように家庭で使用する頻度の少ない庖丁に関しては刃物用椿油などを塗ってあげると錆びにくくなります。数週間使用しない場合は新聞紙などで包み、なるべく湿気のないところに保管してください。

Q.2 庖丁を研ぐ頻度はどれくらい?

A.
使用していてストレスを感じる、切れ味が悪くなってきたなと感じたタイミングがベストです。

研ぎ直しのタイミングに関してはお客様の使い方や、使用頻度によってかなり差がでるので、一概には言えないのが正直なところです。また、まな板の種類によっても大きく差が出ますので、切れ味をより長持ちさせたいという方は檜やイチョウのまな板がおすすめです。

必ずと言ってもいいほど質問されますが、研ぎ直しの頻度はお客様によって様々で、僕個人的な印象では年に1~2回が平均的な回数かと思います。あくまで平均ですので、中には2~3か月で研ぎ直しに持ってこられる方もいれば2~3年に一度という方もいます。

現在、お持ちの庖丁が切れなくなってきたと感じている方や、自分で庖丁を研ぐのが不安だという方がいらっしゃいましたら是非一度ご相談ください。

Q.3 食洗器は使ってもいいの?

A.
持ち手の部分が木材でできている庖丁に関しては基本ご使用いただけません。

食洗器を長期間使用すると柄(持ち手部分)が割れたり、写真のように中子(柄の内部にある金属部分)が錆びて故障に繋がる可能性があります。

どうしても食洗器で洗いたいという方はオールステンレス(一体型)の庖丁を選びましょう。

ただし、食洗器で洗うと刃先を傷める原因になる場合があるので基本的にはおすすめはしません。少し手間はかかりますが、しっかりと手洗いで綺麗にするのが庖丁にとっては一番良いです。

Q.4 白紙と青紙ってなに?

A.
ハガネ(炭素鋼)の種類です。

白紙と青紙は日立金属株式会社さんが製造する炭素鋼で、主に和包丁によく使用される鋼材です。

切れ味に優れ、研ぎ直しがしやすいのが特徴です。

一般的には黄紙、白紙、青紙の三種類が使用されることが多く、黄紙から順に価格が上がっていく傾向にあります。これは製造工程や添加成分の違いによる鋼材の製造コストの差と、鋼材の扱いやすさ(加工や熱処理のしやすさ)が影響しております。

Q.5 ハガネとステンレス、どちらの方が良いの?

A.
どちらにもメリットとデメリットがあるので良い・悪いではなくそれぞれ違った特徴をもつ素材だとお考え下さい。

切れ味で比較した場合、一般的にはハガネの方がより鋭く、優れています。また、研ぎ易さの面でもハガネに軍配があがります。その反面、非常に錆びやすく、日頃のメンテナンスに気を使っていただく必要があるので、気軽に使いたいという方にはおすすめしません。

ステンレスは通常、クロムという成分を約12-13%以上添加しており、空気中の酸素と反応して表面に薄い皮膜を形成することで防錆の役割を担っております。その他合金成分が添加されているものもあり、その成分の割合で耐腐食性(錆び難さ)、耐摩耗性(切れ味の持続性)、靭性(欠けにくさ)、金属組織の細かさ、焼入れ性等に影響してきます。ステンレス鋼の場合は非常に硬度の高い粒子を形成することから、ハガネよりも研ぎにくいとされています。

一昔前からステンレスの庖丁は販売されておりましたが、当時は錆びにくくすることを優先するあまり、切れ味は二の次になっていました。しかし、最近では非常に質の高いステンレスが増えてきており、一般家庭から本職の方まで多くの人が使用しています。

ご年配の方は特に「ステンレスは切れない」という印象をお持ちの方が多いですが、現在のステンレス庖丁は昔のものとは比べものにならない程よく切れます。お手入れも楽で扱いやすいので、特に家庭の庖丁としては非常におすすめです。

材質メリットデメリット代表的な鋼材
ハガネ(炭素鋼)より鋭い切れ味
研ぎ易い
非常に錆び易い
欠けやすい
白紙1号・2号
ステンレス鋼錆びにくい
欠けにくい
研ぎにくいV金10号
モリブデン鋼など
粉末ハイス鋼比較的錆びにくい
刃持ちが良い
非常に研ぎにくいR2・スーパーゴールド
ZDP-189など
全てに当てはまるわけではございません。

Q.6~10

Q.6 ステンレスの庖丁も研げるの?

A.
はい、研げます。

ハガネもステンレスも基本的には砥石で研いで頂くことができますが、ステンレスの方が難易度が高い傾向にあります。合金成分が添加されている分研ぎにくく感じることがあり、粉末ハイス系の高炭素、高クローム鋼材は特に硬度が高いので庖丁によっては砥石の上の滑っているだけのように感じる場合があります。

また、砥石との相性もステンレスの方が明確にでやすく、合わない砥石ですと全然研げないということもおこりえます。この相性(研ぎやすさなど)に関しては使う人によっても感じ方が異なるので正解はないのですが、ご家庭でステンレス庖丁を研がれる際に、初めはビトリファイド系の研磨力の強い砥石から始めたほうが比較的短時間で研げるので練習としても使用しやすいでしょう。

研ぎのコツを掴んできたら、その他特徴の違う砥石を購入してみて、その中で好みの砥石や自分に合った研ぎ方を見つけて行くのも面白いと思います。

※ビトリファイドとは砥石の製法の一種で、主にガラス質の接着剤を使用し、高温で焼き固める製法の砥石を指します。一般的には、水に浸すと泡が出る砥石はこの種類に当てはまります。

Q.7 三徳庖丁の使い方で特に気を付けることは?

・冷凍食品を切らない
・骨を叩く等無理に負荷をかけない
・硬い食材を切る際に無理に抉らない
・食洗器は使用しない

実は、刃物に使用されている鋼材はある一定の温度を下回ると非常に脆くなり欠けやすくなる性質をもっています。これを低温脆性といい、冷凍食材に触れることで冷やされ脆くなった状態で無理に切ろうとすると大きく欠ける場合があります。

研ぎ直しをして修理をすることは可能ですが、大きく欠けてしまうとその分削らなくてはいけないので非常に勿体ないです。

骨を叩くような強い衝撃のかかる作業も庖丁自体が歪む原因となるのでやめましょう。

また、カボチャなどの大きくて硬さのあるお野菜を切り分ける際に、途中で刃が止まってしまっても抉ったりしないよう気を付けてください。木製の持ち手の場合は食洗器の使用は避け、手で洗うことをおすすめします。

気を付けることが多いように感じるとは思いますが、せっかく一生モノの庖丁を購入するのであれば長くお使いいただくためにも正しい使い方を身につけましょう。

Q.8 簡易研ぎ器は使える?

A.
基本的には両刃の庖丁でしたらお使いいただけます。

しかし、簡易研ぎ器ですと刃先のみに小さな傷をつけて切れ味を戻す仕組みなので、一時的に切れ味が戻るだけで、長時間良い切れ味が続くような刃は付きません

通販番組などで簡易研ぎ器をよく目にしますが、ささっと擦って良い刃が付くのであれば職人はいりません。

良い切れ味が長続きする刃を付けるためには、砥石で研いでいただくことが現状では最善の方法でしょう。

Q.9 まず1つ砥石を買うなら?

A.
中砥石を買いましょう。

砥石は主に荒砥石(〜400番前後)、中砥石(600〜2000番)、仕上砥石(3000番〜)の3種類に分かれており、まず最初に買うなら1000前後の中砥石をおすすめします。

3種類の砥石の中でも1番よく使うので、非常に重要な砥石になってきます。更に滑らかな切れ味がほしいという方は3000番、もしくは6000番の仕上砥石もご購入いただけると良いと思います。僕個人的には*面直し砥石も必須アイテムだと考えているので、中砥石や仕上砥石を買う際に一緒に買っていただくようにおすすめしております。


セラミック 面直し砥石 水平君 小(155×55)

面直し砥石

砥石の表面を平らにならす砥石で溝が掘ってあったり、穴が空いているのが特徴。
ダイモンド製の面直し砥石を使う方もいます。

Q.10 ダマスカスってなに?

A.
現在は、庖丁の表面に見える何層にも重なった模様を指します。

異なる2種類(もしくはそれ以上)の鋼材を交互に重ねた積層鋼を使用し、薬品やショットブラスト等の処理を施した際の反応の差異を利用して模様を浮かび上がらせます。

元々は古代インドで開発された鋼材に由来する名前で、製造原理は異なるものの模様が似ていることからそう呼ばれるようになったようです。

ダマスカス鋼Damascus steel)とは、木目状の模様を特徴とする鋼であり、古代インドで開発されたるつぼ鋼であるウーツ鋼の別称である。ダマスカス鋼の名は、シリアのダマスカスで製造されていた刀剣などの製品にウーツ鋼が用いられていたことに由来する。現在は異種の金属を積層鍛造して模様を浮かび上がらせた鋼材もダマスカス鋼と呼ばれているが、本来のダマスカス鋼の模様はるつぼによる製鋼における内部結晶作用に起因するものである。 

wikipediaより

この模様が切れ味に影響することは無く、主に装飾だとお考えいただいて宜しいでしょう。