庖丁を知る

【鋼材】粉末ハイス鋼の種類と特徴

粉末ハイス鋼とは?

粉末ハイス鋼は、金属を粉末状にして粒子を一定の細かさにした後、加圧焼成することで作り出されます。

これを粉末冶金法といいます。

ハイス鋼は元々、金属加工などに使用する切削工具に使用されている鋼材ですが、粉末冶金法によって作られた粉末ハイス鋼は粒子が細いため結合度が高く、耐摩耗性に優れています。

その反面、他の鋼材と比べて硬度が高いため研ぎにくく、高価なものが多いです。

溶鋼を噴霧して製造した微細な粉末を、溶解させることなく特殊な焼結法、鍛造法を用い、緻密に固めた素材のことで、材料中の成分の偏り(偏析)が少なく均一な焼入れ組織が出来ます。
また、材料中の炭素量を増やしても巨大炭化物が出来ない為、従来より高炭素量の刃物鋼が製造可能になりました。焼入れ硬度が高くても、炭化物が微細に多く存在する組織である為、切れ味の持続性が良く、研ぎ直しも比較的簡単に行う事が出来ます。
現在の時点では、最高級の刃物鋼といわれています。

出典:http://masahiro-hamono.com/story/story08

スーパーゴールド2 / SPG2

炭素含有量:非公開
HRC(ロックウェル高度):約62以上(*熱処理温度による)
メーカー:武生特殊鋼材株式会社

スーパーゴールド2(SPG2)は、粉末冶金法により誕生した当社オリジナルの超高級刃物鋼です。
近年の製鋼技術の飛躍的な進歩により、精錬した溶湯を噴霧状にして、急速凝固させた鋼の粉末を製造することが可能になりました。その粉末を原料とし、圧粉、焼結、鍛造圧延等の工程を経て製鋼する方法が粉末冶金法です。粉末冶金法により製鋼された刃物鋼は、従来の溶解法に比較して偏析が無く、均一微細な組織となるため、火造り鍛造性や被削性が極めて良好です。また溶解法では不可能な多量の高合金成分を含有させることが可能となり、従来得られなかった組成の超高級刃物鋼・スーパーゴールド 2 が実現しました。
スーパーゴールド2は刃物の4大条件である

1. 高硬度であること
2. 高靭性であること
3. 耐摩耗性が良いこと
4. 耐食性に優れていること

のすべてを充足した超高級刃物鋼です。このスーパーゴールド2を別名「粉末ステンレス・ハイス」と称しているのは、粉末冶金法によって初めて成し得る超高級刃物として、ハイスの特徴・性質を持つ材料をステンレス化(耐腐錆性化)したことに由来するものです。このスーパーゴールド 2 は高温硬度が得られるため、セラミックコーティングやフッ素樹脂コーティングを行っても劣化せず特徴を発揮します。

出典:http://www.e-tokko.com/spg2.php
シャープネス
(鋭さ)
靭性
(欠けにくさ)
耐摩耗性
(刃持ちの良さ)
耐腐食性
(錆び易さ)
研削性
(研ぎ易さ)
〇+〇+
※表はあくまでも私個人の感覚値です。同材質でも熱処理によって性能差がでますので、ご注意ください。

ZDP-189

炭素含有量:約3.0%
HRC(ロックウェル高度):約65以上(*熱処理温度による)
焼入れ温度帯:約1000~1050℃
焼入れ方法:油冷 / 空冷 
メーカー:日立金属株式会社

ナイフや庖丁に使用される鋼材の中では最も硬い部類に入り、耐摩耗性・耐食性に優れた材質です。

元々は高級ナイフ用に開発された鋼材ですが、現在では庖丁にも使用されるようになり注目されている粉末ハイス鋼の一つです。

刃持ちが非常に良いのが魅力ですが研磨が困難なため、刃が欠けた際には修正に苦労するでしょう。

個性強い鋼材ですので、一般家庭や本職向けというよりも趣味などで使用する方におすすめです。

シャープネス
(鋭さ)
靭性
(欠けにくさ)
耐摩耗性
(刃持ちの良さ)
耐腐食性
(錆び易さ)
研削性
(研ぎ易さ)
◎+
※表はあくまでも私個人の感覚値です。同材質でも熱処理によって性能差がでますので、ご注意ください。

その他特殊合金鋼

SDL / SKD11

炭素含有量:1.5%
HRC(ロックウェル高度):約58-62(*熱処理温度による)
メーカー:日立金属株式会社

C
(炭素)
Si
(ケイ素)
Mn
(マンガン)
Cr
(クロム)
Mo
(モリブデン)
V
(バナジウム)
1.5%0.3%0.4%12.0%0.9%0.3%
出典:日立金属株式会社カタログ

SDLは耐摩耗性に優れた強度の高い合金工具鋼でダイス鋼とも呼ばれます。

硬度と耐摩耗性に優れており、冷間金型の材料としてよく使用されております。

熱処理後の歪みが少ないため、精密部品に適している材質です。

ダイス鋼とは

プラスチックなどの成形に使う金型をダイといい、その複数形がダイスです。

SKDはSteel(鉄) Kougu (工具)Dies(金型)の略で、その名の通り金型の材料としてよく使用されています。

DC11 / SKD11

炭素含有量:1.4~1.6%
HRC(ロックウェル高度):約61以上(*熱処理温度による
焼入れ温度帯:約1000~1050℃
焼入れ方法:空冷
メーカー:大同特殊鋼

C
(炭素)
Si
(ケイ素)
Mn
(マンガン)
P
(リン)
S
(硫黄)
Cu
(銅)
Ni
(ニッケル)
1.4~1.6%0.40%以下0.60%以下0.030%以下0.030%以下0.25%以下.0.50%以下
出典:大同特殊鋼カタログ
Cr
(クロム)
Mo
(モリブデン)
V
(バナジウム)
11.00~13.00%0.80~1.20%0.20~0.50%
出典:大同特殊鋼カタログ

DC11もSDLと同様に冷間ダイス鋼の一種です。

硬度と耐摩耗性に優れ、靭性も良好なのが特徴です。

こちらも熱処理変寸(焼き狂い)が非常に小さく、精度の必要な製品に適しています。