国内活動

第2回「次世代食文化フォーラム」 前篇

今回はご縁があり、食文化ルネサンスが開催する次世代食文化フォーラムに参加させていただきました。

日本の食文化を次世代に繋げていくためには現状どのような課題があり、それらをどう解決していくのかを皆んなで考え議論し合う非常に刺激的な一日でした。

話を聞くのに夢中で全く写真を撮っていなかったので、今回議論させていただいた中で特に印象に残ったの議題と、それぞれの議論の中で上がった様々な意見を僕なりに噛み砕いてご紹介させていただこうと思います。

紹介する議題
  • 商品の適正価格について
  • 働き方改革について
  • 人類が経済合理性を追求していった先に幸せはあるのか?
  • 各々が目指す未来のビジョンは?

商品の適正価格について

商品の適正価格については同じ料理人の方でも異なる意見が挙がっており、値上げをしようか悩んでいるグループ・出来れば値上げはしたく無いと考えるグループ・既に価格を上げたグループ、大きくこの3つに分かれました。

値上げをするべきか悩んでいるグループの意見

  • 価格を上乗せするだけの価値を生み出せているのか、自分が提供するサービスや技術に確信を持てない。
  • 競合他社にお客を取られてしまいそうで不安。

出来れば値上げはしたく無いと考えるグループの意見

  • 今まで来ていただいていたお客様のことを考えると、出来る限り値上げをせずに続けて行きたい。
  • 差別化のしづらい商材であるため、工夫の余地がまだ見つかっていない。

既に価格を上げたグループの意見

  • 新しい価値、つまり作り手のクリエイティビティを如何に上乗せできるかが一皿の価値を上げることに繋がり、これらを提供していくためには価格の改訂が不可欠であるから。
  • 作り手(料理人や伝統工芸の職人など)を守っていくためには良い職場環境を作っていく必要があり、その中でも最も重要なことの一つである賃金を改善していく必要があるから。
  • 価格を上げたからと言って、客数が大幅に減るかというと一概には言えない。提供する商品のクオリティーの向上にも繋がるため、かえって客数が増加する場合も多い。

様々な意見が挙がり、料理人同士でぶつかる場面も見られましたが僕自身はそれぞれ意見や見方が異なるのはごく当たり前のことだと思います。

なぜなら、同じ飲食店を経営していても目指すところや、ターゲットとなる客層が異なれば経営戦略も大きく変わってくるからです。

ビジネスにおいては需要と供給のバランスが重要であり、自分が提供している商品に対してそれを求めている人がどれ程いるのか、また同一商品であってもターゲット層が20代の一般女性なのか、50代以上の富裕層なのか、海外からのインバウンドなのかによっても価値の感じ方は異なるため、需要も大きく変動するでしょう。

供給(自分が作りたいもの)と需要(社会が必要としているもの)を簡単なグラフに表すと以下のように考えることができます。

Aは個人的な評価が高い(自分が作りたいもの、良いと思うもの)と社会的評価も高い(需要があり、価値も高い)がマッチしている状態なので事業も安定しやすく、自分の自信作に高い価値が付くという非常に幸せなポジションだと思います。

このポジションに立てているのがまさに米田肇シェフのような方で、料理人にであれば誰もが目標とするところではないでしょうか。

しかし、このポジションに立つためには血の滲むような努力と如何にして価値を創造していくか、常に考え続けることが大前提であることを忘れてはいけません。

Cは個人的な評価も低く(自分が価値がないと思っている)、社会的評価も低い(需要がなく、価値が低い)状態なので、このポジションは考える必要がないでしょう。

難しいのがBとDです。

Bは自分が良いと思っているのに、社会的には評価されない状態を指しており、Dは自分がやりたいことではないが社会的には価値の高い仕事を表しています。

どちらも個人の価値観と社会的な価値観が一致していない状態なので、このどちらかで悩んでいる人が大半を占めていると思います。

Bの場合は自分が納得のいく商品を如何に作るか、ということばかりに目が行き過ぎて、自分と社会の間に大きな価値観の差があることに気づいていない場合が多いです。

客観的に自分を見ることができていないので、このような人に限って「なんでこんなに良い物を作っているのに、わかってくれないんだ。」、「お前らは何もわかってない!」と原因を外に投げる傾向があります。

長い時間を費やしたからといって社会から認められるわけではないという点に注意しなくてはなりません。

天才が時代を先取って、革新的なアイデアや大きな目標を実現しようとするときにも同じ状態になり、理解者が非常に少ないことがありますがこれは非常に稀なケースなので今回は例外とします。

Dの場合は自分のやりたいことではないが、社会的な価値が確立されており既に需要のある分野なのでビジネスと割り切って選択している方が多いでしょう。

ビジネスの基本は顧客に満足してもらうことなので、事業として成功するためには自分の好みとは切り分けて考えることが必要になります。

本業でどうしてもAのポジションを取ることが困難な場合はCで安定したお給料を稼ぎつつ(または利益を上げる事業を運営しながら)、Bは利益度返しで自分の納得いく仕事をし、少しずつ社会的な価値を高めていくという2本柱での戦略が有効だと考えられます。

途中参加された辻調理師専門学校の辻学長もおっしゃっていましたが、食文化はそもそも平等ではなくヒエラルキーが存在するものである、つまり適正価格について三ッ星レストランと一般のレストランが同じ土俵に立ち一つの答えを出すこと自体に無理があるのです。

僕自身は商品の値段で良し悪しが決まるわけではないと思っていますし、人が一生懸命に取り組んだ仕事に対して批評をするつもりはありませんが、どの仕事においても技術の高い人と低い人、結果を残す人と残せない人が混在しているという現実が存在します。

したがって各々が自分のポジションを把握し、価格に見合った価値が提供できているか・自分なりのオリジナリティーで勝負ができているか等、様々な要素を因数分解して客観的に見つめなおし、どのような戦略がベストであるかを見極めた上で、日々の努力を積み重ねていくことが非常に大切だと感じました。

働き方改革について

特に飲食業界は労働集約型産業である上、他の業種と比べて生産性が低く、個人の労働時間が非常に長い傾向にあります。

一流の店ともなれば1日に15時間の労働を課せられること珍しくはありません。

今後働き方改革を推し進めていくためには現状どのような問題が立ちはだかっているのか、それらを解決していくためにはどのようなアイディアがあるのか、異なる立場から様々な意見が挙がりました。

飲食業界は俗にいうブラック企業が多く、労働時間が長く、仕事内容も厳しい上に賃金が低いため、特に日本では料理人を目指す若者が減少傾向にあります。

一般の企業より厳しい仕事になってしまうことは現在の飲食業界の構造上仕方がないことですが、この問題を改善しない限り人材不足は改善されませんし、働き手の母数が少なければ優秀な人材が集まる確率も非常に低くなります。

様々な問題がある中で、今回は労働時間と賃金、この2つの問題について紹介していこうと思います。

労働時間

現状、全ての作業を人間が行っているため商品価値を高めようとこだわる程作業が複雑になり、そこへ費やす時間も増えていきます。

多くのシェフはクオリティーを維持したまま、如何に作業を効率よく短時間で終わらせるかを常に考えながら仕事に向き合っているとは思いますが、問題はそれらの作業を全ての従業員が同じレベルでこなせるわけではない、という点です。

この問題を解決するためには短期的・中長期的な目線から異なるアプローチでの解決策を同時に考えていく必要があります。

まず短期的な解決策としては、作業を出来る限り単純で明確なものにし、マニュアル化することで誰でも一定の水準以上のパフォーマンを出せるようにするということ。

複数の店舗を持つ大手のチェーン等では必ずマニュアルを参考に作業を進めるように設計されており、このようなシステムを導入していくことが大切だと思います。

見て覚えろ。という考えは従業員の積極性を養うためには有効な場合もありますが、人手不足が深刻な今、仕事を見て覚えさせる方法では時間が幾らあっても足りません。

口頭で丁寧に教えた方が確実に効率が良いですし、細部まで明確に伝えることができるためより早く習得ができるのでないかと思います。

当たり前ですが職場は学校とは違い、仕事の対価としてお金をいただく場所なので、教わる側も指導してもらうのを待つのではなく、”周りの仕事を見て技術を盗む”くらいの積極性を持つことが大前提です。

また、中長期的にはAIやロボットを厨房に組み込むことで、繰り返しの単純作業を担ってもらうという解決策考えられます

他の分野では既にAIやロボットを導入しているところも多く、人間が担う作業量が減ることで時間と体力の面で余裕が生まれ、新たなイノベーションに繋がりやすくなることは明らかです。

これによって、人間にしかできないクリエイティブな作業に今まで以上に注力することが可能になり、料理業界を更に前に進めるエンジンと成り得るでしょう。

現在は、米田肇シェフが先頭に立って大学の研究者やSONYなどの企業と共同で研究を進めており、次世代の料理人が働きやすい環境を作っていくために尽力されております。

賃金

現在は昔と比べて大幅に改善されてきてはいるようですが、労働時間も考慮に入れた上で他分野と比較するとまだまだ低いのが現実です。

賃金が低ければ当然働きたいと思う若者も増えませんし、何より業界にいる料理人達が楽しそうに仕事に取り組んでる姿を見せなければ、「厳しい上に楽しくないし、頑張っても報われないんだな」と感じてしまうと思います。

賃金を上げていくためには利率を上げる必要があるため、作業の効率化や原価のコントロールなどが解決策として第一に挙げられることが多いでしょう。

しかし、良い人材を雇いたいと思うのであれば彼らが働きたいと思うような職場を作ることが大切であり、その価値を創造していくのがシェフの役割ではないか。シェフが120パーセントの仕事をして常に先頭を走り、サービスや商品の付加価値を高めていくことで利益が上がり労働環境の改善に繋がるのではないか、という意見が挙がっておりました。

飲食業界は他の分野と比べても労働に対する平均的な報酬が低く、競合が多いこともあり突出した価値を生み出すことが非常に難しい分野であることは間違いないですがそれでも働き方改革を進め、社員が安心して暮らせるような環境を整えて行くことが重要だと感じました。

お給料をいただく側も賃金に対して不満を口にする前に、それに見合った価値をお客様に提供できているか、その上で自分自身の価値を高めていく努力をしているか、もう一度自分を見つめなおすことが大切です。

前篇のまとめ

今回皆様と議論させていただいた内容が余りにも多く、自分ではだいぶ絞ったつもりですがそれでも一度では整理しきれないため残りの議題については後篇で書かせていただこうと思います。

紹介させていただいた内容は皆様からの意見を参考に書いておりますが、僕自身の考えを述べている部分も多くあるので、あくまでも一意見として捉えていただければと思います。

学んだことや感じたことを文章に書き起こすことで、自分の中で消化することができるのでアウトプットの場としてブログに記録するように心がけています。

料理に携わる人だけではなく、そのお仕事にも通ずる考えが沢山あると思いますので、是非とも参考にしていただければ幸いです。