こんにちは。
庖丁専門店スタッフのTomoです。
前回の記事では作業工程の前半までの説明と、僕の体験談について書かせていただきました。
今回はその続きとして、後半の作業工程を紹介していこうと思います。
【Instagram】 tomo_knife_life
中川打刃物 ”NAKAGAWA KNIVES”
堺市で白木刃物の白木健一から16年学び、唯一の弟子となり、後継者として中川悟志が堺打刃物の伝統産業をしています
引用:@nakagawa_kajiya (instagram
2021年4月から中川打刃物として会社設立
白三から白一、青二から青一
ステンレスの銀三、VG10
本焼まで扱う職人は日本でもただ1人の職人。
製造工程・後半
前半はこちらより
泥塗り
焼き入れの前に庖丁に泥を塗る作業です。
この泥を塗ることで、水で冷却する際に発生する蒸気膜を抑制し、より効率よく素早い冷却が可能になります。
また、熱の入り方を均一にする効果もあり、焼きムラを軽減する役割を果たします。
高温に熱された庖丁を水中に入れた際に、庖丁の表面に触れている水分が瞬間的に蒸発して気化することでできる薄い空気膜のこと。
この空気膜は断熱の働きをするため、冷却スピードが遅くなり上手く焼きが入らない原因になります。
泥を塗ることで、泥がスポンジのような役目を担い、水分の吸収と蒸発を効率よく繰り返すことで焼き入れに必要な冷却速度を保つことができると言われています。
油での焼き入れの場合は冷却スピードが水と比べて遅く、蒸気膜もできないため、泥を塗る必要がありません。
本焼きの場合はこの工程で、土置きという作業を行います。
土置きに関しては、基本的に水・油に関係なく必要とされます。
※土置きをせずに焼き入れをする場合もあります。
焼き入れ(冷却)
刃物としての硬さを得る工程です。
約750~800℃前後に加熱した後に一気に冷却することで組織が変化し、刃物として十分な硬さを得ることができます。
※焼入れ温度帯は鋼材の種類によって異なります。上記の温度は炭素鋼の焼入れ温度です。
現在、ステンレス製の庖丁が主流になりつつあり、それに伴い機械による熱処理が一般的になってきております。
しかし、大阪・堺を主とした一部の産地では今なお炭素鋼(ハガネ)の庖丁を扱っている鍛冶屋も多く、職人が自分の目で温度を判断し、正確に焼き入れを行う技術が伝承されております。
温度が低ければ刃物としての硬さは得られず、逆に高すぎれば刃物自体が脆くなってしまったり、最悪の場合はヒビ割れ等の破損に繋がります。
わずか数十度の温度帯を色で見分け、正確に焼き入れを行う技術はもはや神業と言えるでしょう。
泥落とし
焼き入れ後、表面にこびり付いた泥を荒目のバフ等で磨き、落としていく作業です。
焼き戻しの際に均一に熱が加わるように表面の泥を落としておきます。
焼き戻し
刃物の硬度を調節し、粘りを持たせる工程です。
焼き入れ後の刃物は硬さは十分であるものの、靭性(粘り強さ)に欠け、実用的ではありません。
そこで、約200度前後に加熱して一定時間保持することで、焼きが戻り(硬度が落ちる)、刃物としての硬さと粘り強さのバランスが取れた良い庖丁に仕上がります。
※焼き戻し温度帯は鋼材の種類によって異なります。上記の温度は炭素鋼の焼入れ温度です。
現在は機械を使用して正確な温度で焼き戻しを行う場合が多いですが、最も伝統的な手法では炉で加熱しながら、水滴を垂らすことで温度を判断し、焼き戻しを行う技術等があります。
歪み直し
刃付け師に渡る前の最終工程です。
この工程では熱処理によって生じた反りや捻じれなどの歪みを取り除いていきます。
一本一本異なる方向に歪みが生じるため、鏨を入れる位置や金槌で打つポイントをしっかりと見極める必要があります。
全ての工程を終えて
10数もの工程を経て、ようやく刃付け師の元へ渡ります。
鍛冶屋と言えば鍛造のイメージしか沸かない方も多いのではないかと思いますが、実際にはこれだけ多くの作業を行っています。
全行程の中でも最も技術的難易度が高いとされているのが温度の管理、つまり鍛接や焼き入れ・焼き戻しの工程です。
鍛接工程では前半の記事でも説明させていただきましたが、出来る限り温度を上げずに刃金と地金がくっつくギリギリの温度を判断して、素早く正確に鍛接をする必要があります。
温度が低ければ鍛接不良(アイケ)がでる確率が上がり、温度が高すぎれば組織が粗大化し脆く欠けやすい庖丁になってしまいます。
また、焼き入れ工程では約750~800℃の僅か数十度℃の温度帯を狙わなくてはいけません。
ほんの僅かな色の変化で温度を判断する技術は長年の修業を経てようやく習得できる技術で、全ての工程の中で最も重要で難易度が高いとされています。
一見、簡単そうにこなしているように見える作業も科学的観点から紐解いていくと、人間が感覚で習得できる技術だとは思えないほどに複雑な要素が絡み合っています。
実際に、職人の技術を科学的観点から分析していく試みが多くなされていますが、その技術の多くが理にかなっており、科学の発展していなかった時代に圧倒的な試行錯誤の回数と、その経験によって培われた体の感覚のみでこれらの技術にたどり着いた先人達には驚かされるばかりです。
そして、二日間素晴らしい経験をさせていただき、ありがとうございました!
鍛冶屋さんの仕事について、より深く理解していただけたら嬉しいと思って紹介させていただきました。
僕自身も趣味で工場に炉を作って焼き入れをしたり、自分で刃付けをしたりと色々なことにチャレンジしておりますが日々失敗ばかりです。
失敗を恐れて何もしないよりは失敗してもチャレンジする方が多くの経験を積むことができると思っています。
失敗を積み重ねていく中で常に試行錯誤を繰り替えし、少しづつ成長をしていくことが最も大切なことではないでしょうか。
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