職人を知る

【職人シリーズ 鍛冶屋編】向刃物製作所 玄海正國

向刃物製作所

鍛冶屋 向米雄さん(佐賀県・加部島)

玄海正国の銘で有名な職人さんで、主に水本焼きを得意としています。

現在は佐賀県の加部島という小さな島に工場を構えており、玄界灘が見える静かな場所で庖丁づくりをされています。

左手に見えるのが庖丁の原型でかなり厚めの板材になります。

これをベルトハンマーで鍛造することで右手に見える庖丁の形に少しづつ伸ばしていきます。

本焼きとは単一鋼材から作られた庖丁を指し、特に水で焼き入れをする水本焼きは非常に高い技術を要するため、作ることができる職人は現在日本でも片手で数えられる程しかおりません。

過去と現在

10代のころに地元加部島の野鍛冶に弟子入りしたのがこの業界に入ったきっかけだったそう。

その後、刃物の産地で有名な大阪の堺で技術を学びたいと思い、堺で鍛冶屋を営む小林刃物へ修業に行きました。

そこで奥様と出会われご結婚されたそうです。

ネットなどで書かれている沖芝さんの弟子だという話は全くの嘘で、奥様のご実家が鍛冶屋を営んでおり、そこで庖丁作りの技術を学んだというのが真実です。

堺で修業をした後平成4年ごろに地元加部島に戻り、それから約30数年ほど現在の工場で庖丁作りに携わっております。

数年ほど前に体調を崩されてからはあまり鍛冶仕事をしておらず、本焼きを打つ機会も年々減ってきているとのことでした。

また、長年向さんの生地の刃付けを担当していた大阪・堺の刃付け師である伯井實さん(伯鳳の銘で有名)が数年前に他界されたことで刃付けを担う職人がいなくなり、商品として仕上がる量が激減しました。

他の工程を担う職人がいなくなってしまうことは分業制を採用している職人にとっては大打撃になりますし、さらに時代の流れやコロナの影響も相まってこの仕事を続けて行くことが非常に困難な状況になりつつあります。

現在では向米雄さん(玄海正國)と伯井實さん(源伯鳳)の共作である本焼きが新しく作られることは二度とないため、殆ど市場に出回っておらず手に入れるのは困難でしょう。

僕自身は5-6丁ほど持っておりますが、どの庖丁も非常に美しく宝物のように大切に扱っています。

訪問を経て

向さん自身の経歴はもちろんですが、庖丁作りに対する思いやこの業界に対する考えなど奥様や息子さんも交えて濃いお話をさせていただくことができました。

現代ではネット(YOUTUBEやブログなど)や人伝いで色々な情報が手に入りやすく非常に便利な世の中ですが、信憑性に欠ける情報も同じくらい多く出回っており全てが正しいとは限りません。

それらの情報はあくまでも他人が見聞きして感じたことで発信者の主観が混じっていることが殆どであり、それ以上でも以下でもないと思っているので僕自身はあくまでも一つの考えとして捉えるようにしています。

そういった情報で満足してしまうと、自分自身の目で見て・耳で聞き・肌で感じることをしなくなるため、本当の意味での学びを得ることができないと思っています。

更に深く学ぼうと行動しなくなることで、自分で自分の成長する機会を奪ってしまうことになります。

本当に深く学びたいと思うのであれば、直接ご本人にお会いしてお話を伺ったり、実際に体験することが最善の方法であると改めて感じました。

最後に向さんが鍛造した庖丁を数十本ほど拝見させていただきましたが、本焼きともなると値が張るため中々手が出せず今回は地元でしか買えないであろう家庭用の庖丁を2丁手土産に購入させていただきました。

お忙しいところ丁寧にお話を聞かせてくださった向一家の皆さん、本当にありがとうございました。