中川打ち刃物
鍛冶屋 中川悟志さん(大阪・堺市)
同じく鍛冶屋をされていた白木健一さんの元で修業をした後に独立し、師匠の工場と伝統技術を受け継ぐ若手の職人さん。
大阪・堺では庖丁製作を工程ごとに分け、分業制とすることでそれぞれの道のプロフェッショナル達が協力して一つの作品を作り上げます。
その中でも鍛冶の工程を担う職人として活躍し、扱う庖丁や鋼材の種類は幅広く堺の中でもトップレベル。圧倒的な正確さとスピードで高品質の庖丁を作り上げ、業界全体を支える大黒柱のような存在。
更なる高みを求め日々挑戦を続け、今庖丁業界を盛り上げている立役者の一人が今回紹介させていただく中川さん。
【Instagram】 @nakagawa_kajiya
作品集
紋鍛錬 Montanren
合わせの和庖丁には地境という軟鉄と刃金の境目が存在します。
通常は直線の刃金を張り付けるので、地境も真っすぐになるのですが、中川さんの場合は波の紋様を描くように加工した刃金を張り合わせることで、見た目も美しい庖丁に仕上がっています。
また、鍛接不良が起きないように刃金には細かい工夫がされており、火造りの際の温度管理や正確に早く鍛接をすることを一番心がけているとおっしゃっていました。
品質が良いのはもちろんですが、その上で細部にもこだわりを持ち一丁一丁丁寧に作り上げています。
炎紋 墨流 Enmon Suminagashi
中川さんオリジナルで、世界で唯一の紋様になります。
名前の通り炎のような紋様の地境が特徴の墨流です。
地境は生地を叩いて伸ばした後の完成形を想像して、狙ったバランスに仕上がるように刃金の形を作ります。
刃金の形状を庖丁の種類に応じて変えるのはもちろん、細部の削り方にもこだわっていて、詳しくは企業秘密ですのでお教えできませんが、この仕上げをするかしないかで鍛接不良の割合がが大きく変わるそうです。
裏側はあまり注目したことがない方も多いかと思いますが、今後は庖丁をご購入されたらまず裏スキを見てみましょう。
庖丁によって地境の形もバランスも異なっていて、中川さんが如何に美しさやバランスにこだわりをもって作っているかがわかると思います。
玄武 墨流 Genbu Suminagashi
中川さんオリジナルで、世界で唯一の紋様になります。
菱形の紋様は今までに見たことがなかったので、初めて目にした時はとても興味深く眺めていたのを覚えています。
墨流のデザインは積層軟鉄に加工を施すことでオリジナルの紋様を作りあげていきます。
墨流(ダマスカス)の紋様一つにしても様々な手法が存在し、想像通りの紋様に仕上げるためには何度も試作品を作る必要があるので非常に手間のかかる庖丁ですが、積層鋼と刃金の組み合わせ方によって表と裏でデザインを変えることができるので色々なパターンで庖丁を作ることが可能です。
中川さんが作り出す紋様は日本国内に留まらず、世界中の多くの人たちを魅了しており、現在はすでに捌き切れない程のオーダーを抱えているそうです。
水本焼 Mizu-Honyaki
中央よりやや峰側に見られる波模様が刃文と呼ばれるもので、本焼き庖丁にのみ現れる紋様になります。
高品質の水本焼きを作れる職人は日本でも五本指で数えられる程しかいないと言われており、庖丁の中で最も難易度が高いとされています。
特に焼き入れという工程では温度管理が非常に難しく、全神経を集中させて作業に当たるため一日十数本が限界だそうです。
また刃付けにも非常に手間が掛かるため、生産量自体が非常に少なく、希少な庖丁になります。
価格は10数万円以上のものが多く、一般の方には中々手が出ないクラスの庖丁ですが、板前にとって本焼きを使うということは一人前になった証であり、今現在でも一度は手にしたい庖丁の一つとして高い人気を誇る庖丁です。
思い出
初めて中川さんの工場に訪問させていただいたのが2019年の11月。
人生で初めて庖丁づくりの現場を見学させていただくことになり、とてもワクワクしていていました。
この日は刻印の作業や中川さんの火造り作業を見学させていただき、初めて鍛冶屋さんのお仕事に触れることができ、僕にとって記念すべき日となりました。
この翌年には焼き入れ工程の見学をさせていただき、火造りとは違った緊張感の中で作業をされているのを見てカッコいい!と思いながら、数時間じっと傍に座っていました。
最後に特別に焼き入れを体験させていただける事になり実際に炉の前に立たせていただきましたが、あまりの暑さに驚いたのを鮮明に覚えています。
この時、趣味で庖丁作りをしていたので暑いだろうと予想はしておりましたが、その予想を遥かに上回る熱風で炉を直視できず、結果たった数本だけの作業だったにも関わらず顔と腕が軽い火傷のようになってしまい、しばらくヒリヒリしていた記憶があります。
側近が2022年の2月で、3回目の訪問でした。
この日は特別に文化包丁の火造りを体験させていただくことになりました。
生地の鍛造、裁断、研磨など複数の工程を経て焼き入れ前の状態まで丁寧にご指導していただきました。
今回経験させていただいた工程の中では鍛造工程が最も難しく、ベルトハンマーで叩く作業は想像以上に力のいる仕事で驚きました。思った以上にハンマーの反動が大きく、力いっぱい抑えていても庖丁が弾かれてしまい、思ったところを叩くことができませんでした。
また、ベルトハンマーのコントロールは足元のペダルで行うのですが操作が非常に難しくて、スピードの調節が全くと言っていいほど上手く行かず、一丁の庖丁を鍛造するのに10数分もかかってしまいました。
中川さんがお手本を見せてくれましたが10数秒で完璧に作業を終えてしまい、職人の技術がどれだけ凄いかを肌で感じることができた貴重な時間となりました。
一丁しか打っていないのにも関わらず腕がパンパンになってしまい、翌日筋肉痛になったのはここだけの話です(笑)
中川さんの工場には何度も足を運ばせていただいておりますが、行く度に親切に色々と教えてくださり、常に新しい発見があります。
本当にお忙しい中わざわざ時間を割いてご指導いただいているので、可能な限り吸収して帰りたいと思いながらいつも真剣にお話を伺っています。
こうした貴重な時間で勉強させていただいたことをお客様にもできる限りお伝えできればと日々思いながら接客を心がけています。
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