本焼とは?
単一鋼材で作られた庖丁のことで、基本的にはハガネ製の庖丁を指します。
本焼は日本刀の製造技術を応用して作られており、刃文を有するのが大きな特徴になります。
主に油焼と水焼の2種類に別れており、特に水焼は高度な技術が求められ製作が非常に困難なことから、現在では品質の良い本焼庖丁を打てる鍛冶職人は数えるほどしかおらず、価値の高い庖丁となっております。
熟練の職人が焼入れをしても写真のように割れてしまったり、刃付け師に渡った後の刃付け工程の中で不良品となる場合もあり、本焼きでは焼入れした内の3割以上が廃棄になることも多いそうです。
合わせ庖丁との違い
本焼は単一鋼材で作られているのに対し、合わせ2枚以上の異なる鋼材を張り合わせて作られております。
構造 | メリット | デメリット |
合わせ | ・価格帯が幅広い ・比較的研ぎ易い ・衝撃に強い | ・歪みが生じやすい |
本焼き | ・非常に鋭利な刃が付く ・歪みにくい ・総じて品質が高い | ・衝撃に弱く、欠けやすい ・高価な商品が多い ・研ぎにくい |
刃文が浮かび上がる原理
刃文には、本焼を作るにあたって非常に重要となってくる「土置き」という工程が関係してきます。
合わせ庖丁の場合は軟鉄が衝撃を吸収する役割果たしてくれるのですが、本焼は単一鋼材で作られるため、そのままの状態で焼入れをすると刃全体に焼きが入ってしまい、非常に脆く折れやすい庖丁になってしまいます。
そこで、単一鋼材の中に刃となる硬い部分と、衝撃を吸収するための柔らかい部分を同時に存在させるために編み出されたのが「土置き」という工程です。
土置きとは焼入れをする前の生地に泥を塗る作業で、焼入れの際に泥を厚く塗った部分と、そうでない部分との冷却スピードの差異を利用して、硬度に差を出す技術です。
この硬度の境目が刃文として浮かび上がるという原理です。
非常に稀ですが、写真のようにダマスカスに似た模様が浮かび上がる本焼き庖丁が出来上がることもあります。
熟練の職人さんでも「本焼きに関しては一生分からない」と言うほど奥が深く、この言葉からも製作するのが非常に困難であることが分かります。
美しい刃文を有しながらも、刃物として優れた庖丁を仕上げる技術は、もはや神業と言っても過言ではないでしょう。
本焼きの魅力とは?
本焼きは先程説明したとおり製造難易度が非常に高く、腕の良い鍛冶屋と刃付け師の両方が居てこそ完成する一本です。
本焼き特有の刃文は土の配合や置き方、火の入れ方、研磨の手法によって異なる表情を見せ、全く同じ刃文は存在しません。
刃文の濃淡が品質に影響するかどうかに関しては賛否両論ございますが、どれを手にとってもそれぞれに個性があり、何度眺めても美しい庖丁ばかりです。
お値段は10数万〜と高価な商品が多いですが、料理人なら誰もが一度は手にしたい憧れの庖丁ではないでしょうか。
古くから受け継がれてきた伝統技術の結晶「本焼き」、庖丁好きとしてはロマンを感じざるを得ません。
僕自身も本焼き庖丁を数本コレクションとして持っておりますが、どれも異なった刃文を有しており美しい庖丁ばかりです。
もちろん庖丁は切れてなんぼの商品ですが、実際に使うだけではなく美術品としての完成度も非常に高いと言えるでしょう。
日本刀から受け継がれる技術とその歴史が詰まった本焼き庖丁の魅力が少しでも皆さんに伝われば嬉しいです。
【Instagram】 tomo_knife_life
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