ステンレス合金鋼とは?
ステンレス製のスプーンや食器などには、目立たない所に『18-8』とか『18-10』などの記号が記されています。
http://masahiro-hamono.com/story/story08
これらの記号の意味は、鉄を主体とした合金ステンレスに含まれているクロム(Cr)とニッケル(Ni)の含有量を表したもので、『18-8』の場合、鉄のなかに18%のクロムと8%のニッケルが入っている事を意味しています。
18-8ステンレスはJIS規格でSUS304(サス さん まる よん)と呼ばれる物で、オーステナイト系ステンレスに区分され、焼入れによって硬化しない為、刃物類には使用されません。
ステンレスの中で、焼入れによって硬化し刃物等に使用されるステンレスは、マルテンサイト系に区分される炭素量が多いステンレスで、ステンレス鋼と呼ばれます。一般に、包丁に使用されているステンレス鋼は、炭素の含有量0.6~1.0%、クロムの含有量13~16%のものです。
種類 | 特徴 | |
クロム・ニッケル系 | オーステナイト系 SUS304 SUS316など | ・耐食性に優れている。 ・熱処理によって硬化しない。 ・基本的に磁性を持たない。(磁石につかない。) ・成分中にクロム、ニッケルを含み、炭素が殆ど入っていない。 ・スプーンや食器に使用されている。 |
クロム系 | オーステナイト系 SUS304 SUS316など | ・耐食性はオーステナイト系のものより劣るが、価格が安い。 ・熱処理によって硬化しない。 ・常温で磁性を持っている。(磁石につく。) ・成分中にクロムを含み、炭素量が少量である。(一般に0.12%以下) ・ボルト・ナット類、家電部品に使用されている。 |
クロム系 | マルテンサイト系 SUS420J2 SUS440Cなど | ・耐食性は他の系統のものより劣る。 ・熱処理によって硬化する。(焼きが入る) ・常温で磁性を持っている。(磁石につく。) ・成分中にクロムを含み、炭素量が多い。 ・刃物類、ベアリング、ゲージに使用されている。 |
モリブデン鋼(モリブデンバナジウム鋼)
販売店によって使用される鋼材は異なりますが、AUSシリーズの3種類が使用される場合が多いでしょう。
AUS-6M、AUS-8、AUS-10はさらに炭素量を増加させバナジウム、モリブデンなどを添加して、硬さ、耐摩耗性、焼もどし抵抗性などを一層向上させた鋼です。用途は高級刃物、ハサミ、ポケットナイフ、医療器具、食品機械、機械部品などです。
引用:愛知製鋼
AUS6M
炭素含有量:0.55-0.65%
HRC(ロックウェル高度):約58.0
焼入れ温度帯:約1050℃
焼入れ方法:油 / 空冷
メーカー:愛知製鋼
C (炭素) | Si (ケイ素) | Mn (マンガン) | P (リン) | S (硫黄) | Ni (ニッケル) |
0.55-0.65% | 0.8%以下 | 0.85%以下 | 0.04%以下 | 0.005%以下 | 0.30%以下 |
Cr (クロム) | Mo (モリブデン) | V (バナジウム) |
13.00-14.50% | 0.10-0.30% | 0.10-0.25% |
モリブデン鋼という商品名で販売されている庖丁の中でも、安価な商品に使用されている鋼材です。
炭素含有量は最も低く、鋭さや耐摩耗性には期待できませんが、靭性・耐腐食性・研削性が高いことからメンテナンスがし易く、家庭用としては非常に扱いやすいステンレス鋼になります。
シャープネス (鋭さ) | 靭性 (欠けにくさ) | 耐摩耗性 (刃持ちの良さ) | 耐腐食性 (錆びにくさ) | 研削性 (研ぎ易さ) |
△+ | ◎+ | △ | ◎+ | ◎ |
AUS8
炭素含有量:0.70-0.80%
HRC(ロックウェル高度):約59.0
焼入れ温度帯:約1050℃
焼入れ方法:油 / 空冷
メーカー:愛知製鋼
C (炭素) | Si (ケイ素) | Mn (マンガン) | P (リン) | S (硫黄) | Ni (ニッケル) |
0.70-0.80% | 0.8%以下 | 0.50%以下 | 0.04%以下 | 0.005%以下 | 0.30%以下 |
Cr (クロム) | Mo (モリブデン) | V (バナジウム) |
13.00-14.50% | 0.10-0.30% | 0.10-0.25% |
モリブデン鋼という商品名で販売されている庖丁の中でも、最も多く使用されている鋼材です。
炭素含有量は6Mよりもやや多く、硬度と耐摩耗性を向上させた鋼材です。靭性・耐腐食性・研削性においてもバランスが良く、価格も手頃なものが多いので、家庭用から本職の方まで広くお使いいただけるでしょう。
シャープネス (鋭さ) | 靭性 (欠けにくさ) | 耐摩耗性 (刃持ちの良さ) | 耐腐食性 (錆びにくさ) | 研削性 (研ぎ易さ) |
〇 | ◎ | △+ | ◎ | 〇+ |
AUS10
炭素含有量:0.95-1.10%
HRC(ロックウェル高度):約60.0
焼入れ温度帯:約1050℃
焼入れ方法:油 / 空冷
メーカー:愛知製鋼
C (炭素) | Si (ケイ素) | Mn (マンガン) | P (リン) | S (硫黄) | Ni (ニッケル) |
0.95-1.10% | 0.8%以下 | 1.0%以下 | 0.04%以下 | 0.005%以下 | 0.30%以下 |
Cr (クロム) | Mo (モリブデン) | V (バナジウム) |
13.00-14.50% | 0.10-0.30% | 0.10-0.25% |
AUSシリーズの中では炭素量が最も多く、硬度と耐摩耗性に優れています。中価格帯の商品に使用されることが多く、価格と品質のバランスが良い鋼材です。
耐摩耗性においてはV金10号にやや劣るという意見もありますが、熱処理を正確に行えばHRC60以上の硬度が出せる鋼材ですので、切れ味においては遜色ないでしょう。
シャープネス (鋭さ) | 靭性 (欠けにくさ) | 耐摩耗性 (刃持ちの良さ) | 耐腐食性 (錆びにくさ) | 研削性 (研ぎ易さ) |
〇+ | 〇+ | 〇 | 〇+ | 〇 |
V金シリーズ
V金1号
炭素含有量:約1.00%
HRC(ロックウェル高度):61以上
焼入れ温度帯:約1050℃
焼入れ方法:油 / 空冷
メーカー:武生特殊鋼材株式会社
C (炭素) | Cr (クロム) | Mo (モリブデン) | V (バナジウム) | Co (コバルト) |
1.00% | 14.00% | 0.30% | – | – |
V 金1は不純物の少ない良質な原料を使用し精錬された V 鋼シリーズの原点であり、組織は緻密で靭性が高く、火造り鍛造も良好、熱処理も容易でありながら耐食性に優れたステンレス刃物鋼です。
炭素 (C) を 1.0% 含有しているので素地には硬い1次および2次炭化物が共存しており、耐摩耗性に寄与しています。
クロム (Cr) を 14% 含有して耐食性や強度の向上に最大効果を発揮します。
モリブデン (Mo) は Cr と共に硬い複炭化物を形成し、耐摩耗性の向上、ならびに耐食性の向上に大きく寄与します。刃物の4大条件である 1)硬い 2)粘り強い 3)摩耗しにくい 4)錆びにくい を実現し、包丁だけでなく、理美容鋏、食品用工業用機械刃物等幅広くご使用いただけます。
武生特殊鋼材株式会社 V金1号
シャープネス (鋭さ) | 靭性 (欠けにくさ) | 耐摩耗性 (刃持ちの良さ) | 耐腐食性 (錆びにくさ) | 研削性 (研ぎ易さ) |
〇+ | 〇+ | 〇 | 〇+ | 〇 |
V金2・5号
炭素含有量:0.65%(VG2) / 0.75%(VG5)
HRC(ロックウェル高度):58以上(VG2) / 59以上(VG5)
焼入れ温度帯:約1050℃
焼入れ方法:油 / 空冷
メーカー:武生特殊鋼材株式会社
C (炭素) | Cr (クロム) | Mo (モリブデン) | V (バナジウム) | Co (コバルト) |
0.65% | 14.00% | 0.15% | – | – |
C (炭素) | Cr (クロム) | Mo (モリブデン) | V (バナジウム) | Co (コバルト) |
0.75% | 14.00% | 0.30% | 0.15% | – |
V 金 2 および V 金 5 が薄刃用のステンレス刃物鋼として支持されるのには、以下の理由があります。
1. 不純物の少ない原料を使い、精錬した V 金 2, V 金 5 は、機械的性質(抗折・降伏点・伸び・絞り・衝撃値)が大きく改善され、
研削性や火造り鍛造性も非常によい結果が得られること。
2. ステンレス刃物鋼として成分調整や組織がすぐれていること。
すなわち通常のステンレス刃物鋼よりも Cr (クロム)と C (炭素)との成分比率を深く追求しています。
共晶炭化物の晶出を抑え、硬度を可能な限りに高くして、耐食性を最高に生かすために、バランスのよい成分調整比を構成して、
微細炭化物の均一な組織を形成しています。
3. 素材の鍛錬加工を充分に行っていること。
厳選された原料を使用しているので、不純物および偏析の少ない鋼塊とはいえ、それらをゼロにすることは不可能です。
そこで、熱間で鍛錬して偏析を拡散させ、組織のあらい粗しょう部は、緻密で靱りのある材料としています。
工程中の熱処理も充分に行い、材料の素性を損なわない配慮も厳重に行っています。V 金 2 は、炭素 (C) の含有量を抑える事で耐食性を高める成分設定としています。またモリブデン (Mo) を添加する事により、鋼材の粘り強さも増しています。刃物として必要な硬さ、耐摩耗性などを備え、研ぎやすさと刃持ちの良さを考慮した設計です。食品機械刃物用としての実績も多々あります。
武生特殊鋼材株式会社 V金2・5号
V 金 5 は、V 金 2 より C 量 , Mo量を増やし、さらにバナジウム (V) を添加する事により、炭化物を微細化しています。
硬度、耐摩耗性、耐食性ともにバランス良く、一般向けのキッチンツール用として支持されています。
シャープネス (鋭さ) | 靭性 (欠けにくさ) | 耐摩耗性 (刃持ちの良さ) | 耐腐食性 (錆びにくさ) | 研削性 (研ぎ易さ) |
〇 | 〇+ | △+ | 〇+ | 〇+ |
V金10号
炭素含有量:約1.00%
HRC(ロックウェル高度):60以上
焼入れ温度帯:約1050℃
焼入れ方法:油 / 空冷
メーカー:武生特殊鋼材株式会社
C (炭素) | Cr (クロム) | Mo (モリブデン) | V (バナジウム) | Co (コバルト) |
1.00% | 15.00% | 1.00% | 0.25% | 1.55% |
商品は低~高価格帯まで非常に幅広く、現在最も多く使用されていると言っても過言ではないでしょう。藤次郎TOJIROでは、コバルト合金鋼という表記で扱われています。
価格と性能を見ても、全体的にバランスの良い材質でステンレスで迷ったらV金10号の庖丁がおすすめです。
V 金 10 は、クロム (Cr) 15%, モリブデン (Mo) 1%, コバルト (Co)1.5% の添加により素地(マトリックス)を強化し、高硬度を実現、刃の永切れ性を一層高めています。
バナジウム (V) の添加によって組織を微細化すると共に、これら Cr, Mo, V の元素は硬い炭化物を多量に作るので、耐摩耗性は一段と向上します。
被削性は良好で刃研ぎが容易です。V 金 10 は高温焼き戻しでの二次硬化が現れるので、約 450℃までの表面コーティング処理を施すような刃物にも最適です。優れた耐食性と切れ味で包丁からナイフ、機械刃物まで幅広い用途で性能を発揮します。
武生特殊鋼材株式会社 V金10号
シャープネス (鋭さ) | 靭性 (欠けにくさ) | 耐摩耗性 (刃持ちの良さ) | 耐腐食性 (錆びにくさ) | 研削性 (研ぎ易さ) |
〇+ | 〇+ | 〇+ | 〇+ | 〇 |
銀紙シリーズ
銀紙1号
炭素含有量:0.80-0.90%
HRC(ロックウェル高度):57以上
焼入れ温度帯:1040-1090℃
焼入れ方法:油 / 空冷
メーカー:日立金属株式会社
C (炭素) | Si (ケイ素) | Mn (マンガン) | P (リン) | S (硫黄) | Cr (クロム) | Mo (モリブデン) |
0.80-0.90% | 0.35%以下 | 0.45-0.75% | 0.030% | 0.020% | 15.00-17.00% | 0.30-0.50% |
銀紙シリーズの中でも、特に耐腐食性に優れているのが特徴です。
硬度はそれほど高くないものの、刃物用鋼材として十分な性能を発揮します。
ただし、本職用としてはやや物足りないと感じるでしょう。
シャープネス (鋭さ) | 靭性 (欠けにくさ) | 耐摩耗性 (刃持ちの良さ) | 耐腐食性 (錆びにくさ) | 研削性 (研ぎ易さ) |
〇 | ◎ | 〇 | 〇+ | 〇 |
銀紙3号
炭素含有量:0.95-1.10%
HRC(ロックウェル高度):59以上
焼入れ温度帯:1040-1090℃
焼入れ方法:油 / 空冷
メーカー:日立金属株式会社
C (炭素) | Si (ケイ素) | Mn (マンガン) | P (リン) | S (硫黄) | Cr (クロム) |
0.95-1.10% | 0.35%以下 | 0.60-1.00% | 0.030% | 0.020% | 13.00-14.50% |
ステンレス鋼の中でも、和包丁に最も多く使用されている鋼材です。
炭素鋼に遜色ない硬さと鋭さを持ちつつも、耐腐食性に優れており、メンテナンスがし易いのが特徴です。耐摩耗性においても優秀で、本職用として使用する方も非常に多いです。
シャープネス (鋭さ) | 靭性 (欠けにくさ) | 耐摩耗性 (刃持ちの良さ) | 耐腐食性 (錆びにくさ) | 研削性 (研ぎ易さ) |
〇+ | 〇+ | 〇+ | 〇 | 〇+ |
元素の作用と効果
五元素の作用
炭素【C】 | 鋼にとってなくてはならない大切な元素で、硬さや強さを増す最大要因の元素。 |
ケイ素【Si】 | 溶鋼中の酸素を除く為の元素。また、強さや硬さを増す作用がある。 (引張り強さでは、炭素の効能の約1/10程度です。) |
マンガン 【Mn】 | 溶鋼中の硫黄を除く為の元素。 また、焼きがよく入るようになる元素で、鋼に粘り強さ、いわゆる靱性(じんせい)を与える。 |
燐(リン)【P】 | 鋼にとって有害な元素で、冷間脆性(れいかんぜいせい)、つまり寒い時に鋼をもろくさせる性質がある。含有量が少ない事が望ましい元素。 |
硫黄(イオウ)【S】 | これも燐と同じく好ましくない有害元素。熱間脆性、つまり、赤熱状態の時に鋼をもろくさせる性質がある。含有量が少ない事が望ましい元素。 |
添加元素の効果
クロム【Cr】 | 焼入性が良くなり、耐食性を増す。13%以上添加されると、ステンレス鋼と呼ばれる。 |
モリブデン【Mo】 | 炭化物を作り耐摩耗性が良くなる。ステンレス鋼では、耐食性も良くなる。焼戻し後のねばさも強力になる。高温状態でも硬く、耐摩耗性が良い。 |
バナジウム【V】 | 非常に硬い炭化物を作り、耐摩耗性が良くなる。結晶粒を微細にする働きがある。脱炭防止効果がある。 |
タングステン【W】 | 炭化物を作り易く、耐摩耗性が良くなる。高温度に耐える性質がある。焼入れ性が良くなる。 |
コバルト【Co】 | 焼入れ組織(マルテンサイト)を強くし、炭化物の脱落を防ぐ。高温状態でも硬く、耐摩耗性が良い。 |
銅【Cu】 | 元々は不純物であるが、抗菌性を示す為、少量添加される事がある。 |
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