刃文とは?
主に本焼き庖丁に見られる紋様を指します。
本焼きにのみ現れる刃文は非常に幻想的で、庖丁が好きな人であれば惹かれること間違いなし。
刃文が浮かび上がる原理
刃文には、本焼を作るにあたって非常に重要となってくる「土置き」という工程が関係してきます。
合わせ庖丁の場合は軟鉄が衝撃を吸収する役割果たしてくれるのですが、本焼は単一鋼材で作られるため、そのままの状態で焼入れをすると刃全体に焼きが入ってしまい、非常に脆く折れやすい庖丁になってしまいます。
そこで、単一鋼材の中に刃となる硬い部分と、衝撃を吸収するための柔らかい部分を同時に存在させるために編み出されたのが「土置き」という工程です。
土置きとは焼入れをする前の生地に泥を塗る作業で、焼入れの際に泥を厚く塗った部分と、そうでない部分との冷却スピードの差異を利用して、硬度に差を出す技術です。
この硬度の境目が刃文として浮かび上がるという原理です。
上の写真は僕自身が趣味で行っている庖丁製作の際に試したもので、6~7本のうち1本に見事刃文が現れて喜んだ記憶があります。
焼き入れ方法
炭素鋼である白紙系や合金鋼である青紙系に適した焼き入れ方法が主に水焼き入れと油焼き入れの2種類になります。
空冷での焼き入れも存在しますが、主にステンレスに用いられるため今回は省略します。
水焼き入れ
名前の通り『水』を冷却媒体として行う焼き入れを指します。
主に白紙系の焼き入れに適しており、特徴としては油よりも冷却速度が速く、より高い硬度を得ることが可能になります。
特に白紙系の場合は焼き入れ性が悪いため冷却速度が遅いと効果が得られず、刃物として十分な硬さを得ることができません。炭素の含有量が多いほど焼き入れ性は悪くなる傾向にあるため、白紙1号は基本的には水での焼き入れでのみ刃物としての硬度を得ることができます。
焼き入れ性は熱処理によって焼き入れ硬化のしやすさを表す合金の性質で、焼き入れをした際に表面からどれだけ深く硬い組織が得られるかを示す性質である。一般に硬化という現象は脆化を伴い起こる。
Wikipediaより引用
また、水焼き入れの場合は土置きの前に泥塗という工程を行う必要があります。
泥塗とは特殊配合した泥水の膜で刃物の表面を均一に薄くコーティングする作業ことで、熱の入り方を均一にし焼きムラを軽減する効果が得られます。また、水で冷却する際に発生する蒸気膜を抑制することで、より効率よく素早い冷却が可能になります。
高温に熱された庖丁を水中に入れた際に、庖丁の表面に触れている水分が瞬間的に蒸発して気化することでできる薄い空気膜のこと。
この空気膜は断熱の働きをするため、冷却スピードが遅くなり上手く焼きが入らない原因になります。
泥を塗ることで、泥がスポンジのような役目を担い、水分の吸収と蒸発を効率よく繰り返すことで焼き入れに必要な冷却速度を保つことができると言われています。
Wikipediaより引用
水焼き入れのデメリットは均一に焼き入れをすることが非常に難しく、ひび割れリスクが高いことでしょう。
油焼き入れ
名前の通り『油』を冷却媒体として行う焼き入れを指します。
主に青紙系の焼き入れに適しており、特徴としては水焼き入れよりも均一な冷却が可能で、焼き割れや変形のリスクが少ないというメリットがあります。
特に青紙系は微量のクロムやタングステンが添加されていることで、焼き入れ性が白紙系よりも良いという特徴があります。焼き入れ性の良い鋼材では水焼き入れをした場合に焼き割れを引き起こしやすくなったり、残留オーステナイトの割合が多くなることで逆に硬度の低下を引き起こす確率が高くなると言われています。
日立金属のカタログには青紙系は水・油どちらを使用しても焼き入れが可能との記載がありますが、仕上がりの性能が異なることからも作り手によって意見が分かれます。
理論上は焼き入れ性の良い低炭素の白紙3号や青紙系の方が失敗する確率は低いので、比較的安定した生産が可能です。
油焼き入れの場合は蒸気膜ができないため、基本的には泥塗をする必要はありません。これは本焼きに関わらず、合わせの庖丁にも言えることです。
水焼きと油焼きの見分け方
白紙1号と2号の本焼きに関しては殆どが水焼きで間違いないでしょう。白紙3号や青紙系の場合は水と油どちらもあり得ます。
青紙は非常に分かりやすく、水焼き入れをした場合は刃文が薄っすらしか浮かび上がりません。それに比べて油焼きをした場合はくっきりと浮かび上がるため一目瞭然でしょう。
青紙で刃文がくっきり浮かび上がっている庖丁に水焼きと表記があったら疑ってください。
白紙3号に関しては水・油に関わらずくっきりと刃文が浮かび上がる傾向にありますが、水焼きの場合はよく見ると刃文が僅かに曇っており、飛び散るように尾を引いているのが見て取れます。
比べて油焼きの場合はより鮮明に浮かんでおり、きっちりした線を描いていることが多いでしょう。
本焼き庖丁で稀に油焼きを水焼きと言って販売していることもあるようなので、騙されないように注意してください。
以下、僕自身の本焼きコレクションの一部です。購入の際に参考にしていただければ幸いです。
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